核情報

2003.10.30

イラン、ウラン濃縮計画を中止?ウラン濃縮の多国間の管理?

イランは、10月21日、テヘランを訪問していた英仏独外務大臣とイラン政府首脳との会談の結果を声明の形で発表しました。その中で、イランは、「ウランの濃縮計画を中止すると」発表したと報じられていますが、これは中断という意味です。米国では、NGOの間で、イランにウラン濃縮・再処理計画の完全な放棄を迫るべきだとの議論が展開されています。また、エルバラダイIAEA事務局長は、ウラン濃縮・再処理は多国の事業としてのみ行うようにすることを提案しています。

イラン政府は、21日の声明(ロイター─BBC:英文)の中で次のように述べています。

「[2.b)i)]イランは、核拡散防止体制の中で、平和的目的のために原子力エネルギーを開発する権利を持っているが、IAEAの規定するすべてのウラン濃縮・再処理活動を中断suspendする」

これは、IAEAの理事会決議(2003年9月12日)の中にある次の要求に従ったものです。

「ナタンズのパイロット濃縮カスケードに核物質を導入しないようにとのイランに対する理事会の2003年6月のステートメントを繰り返すとともに、この文脈において、ウラン濃縮に関連したこれ以上のすべての活動──ナタンズへの核物質のこれ以上の導入も含め──を中止するとともに、信頼醸成措置として、すべての再処理関連活動を、中止するよう要求する。これは、加盟国の要求する保証をIAEA事務局長が提供できるまで、そして、追加議定書の条項の満足な適応がなされるまでのものである。」

suspendは、一時中止、中断などを意味します。

たとえば、毎日新聞の記事は、「中止」という言葉について、記事の中で次のように説明しています。ローハニ国家最高安全保障会議事務局長は、「ウラン濃縮技術開発計画は放棄ではなく中止であるとの考えを示し、中止する期間については明言しなかった。」

カーネギー平和財団のジョージ・パーカビッチは、10月21日、米国PBS(公共放送)のテレビ番組ニューズアワーのインタビューで次のように述べています。(原文

「中断suspendという言葉が明確に説明されていません。この中断がどのくらい続くのか分かりません。イランの代表は、それはわれわれの決めることだ、といっています。われわれ、というのはイランです。ですから、次の大きなステップは、これを永続的なものにすることです。ウラン濃縮の永続的な停止です。イランは、何か見返りを要求するでしょう。・・・・
ヨーロッパ側は、イランに対して、次のような提案をするだろうと思います。<80%完成している原発1基は、持っていていい。これは完成していい。われわれが燃料を保証してもいい。>

[民生用のためですね。]

民生用のためだけです。その代わり、疑惑を完全に無くすことに同意しなきゃいけない。独自の核燃料サイクル能力はなくする。これが基本的バーゲンです。

問題は、米国がこのバーゲンを受け入れられるかどうかです。米国政府は、これまで、少なくとも、一部の高官は、イランには原発は認められない、と言っています。だから、これを何とか整理しなければなりません。

そして、もう一つ整理しなければならないことがあります。イランの意思決定者らが、決めなければならないのは、核抑止力なしで生きて行くことができるかどうかです。できるということになれば、取引が成立します。できないと言うことになると、危機を将来に延期しただけということになります。」

1990年代の北朝鮮の核危機のときにも北朝鮮に厳しい態度をとることを主張し、94年の枠組み合意にも批判的な立場をとってきた「核兵器管理ウィスコンシン・プロジェクト」ディレクターのゲリー・ミルホリンは、ニューヨーク・タイムズへの投書(2003年10月23日)で、次のように主張しています。

「唯一の本当の解決策は、イランに対し、核兵器の材料を作れるすべての施設を解体するよう説得することだ。そうすれば、イランが、短期間で核兵器事業に戻れるという脅威を除去できる。そして、イランは、ブシェールにあるロシア提供の原子炉で生み出される電力の利益は得られる。」

これに対し、「核管理研究所(NCI)」のポール・レベンサールは、翌日の投書で、原発も認めるべきではないと、ミルホリンの主張を批判しています。(原文

「電気とともにプルトニウムも生産するこの原子炉や、ヨーロッパの業者が作りたがっている他の原子炉は、30年以上の寿命を持つものであり、その間に「平和のための原子」の名の下に、いろいろな問題が起こりうる。」

一方、エルバラダイIAEA事務局長は、『エコノミスト』誌で、濃縮・再処理を多国間の管理化にある施設でのみ行うようにすることを提案しています。

「民生用原子力計画における兵器使用可能物質の処理(分離されたプルトニウム及び高濃縮ウラン)と、再処理及び濃縮によるこれらの物質の新たな生産とを、制限するべきときに来ている。これらの事業を、多国間のコントロールの下にある施設におけるもののみに限ることに合意することによってである。これらの制限には、透明性に関する適切な規則、そして、何よりも、製品の正当な使用希望者には提供するとの保証が伴わなければならない。」(原文

ウレンコ(英国・ドイツ・オランダ)、ユーロディフ(フランス、イタリア、スペイン、ベルギーおよびイラン)の濃縮事業などを念頭に置いたものでしょう。

ここですぐにわいてくる疑問があります。

・日本が単独でやっている濃縮・再処理はどうなるのでしょう。
・また、イランが同国の濃縮・再処理事業を中東の別の国との共同事業とすると言った場合、すんなり認められるのでしょうか。

この問題は、2005年のNPT再検討会議が近づくにしたがい、重要な争点になることが予想されます。

 


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