核情報

2026. 2. 7

先制不使用政策を呼びかけたパグウォッシュ広島会議

日本へのメッセージを読み解く

2025年11月1~5日に広島市で開かれた「パグウォッシュ会議」第63回世界大会の「広島宣言」が核保有国に対し「先制不使用」政策採用を呼びかけた。それぞれの核保有国が、他の核保有国の政策と関係なく、一方的に「先制不使用宣言」をするようにという意味だ。これには、もう一つのメッセージが込められている。米国の同盟国は、「核兵器を先には使わない」と米国が一方的に約束するのに反対しないように、というものだ。このことは、広島の会議の分科会で先制不使用政策の重要性を強調したフランク・フォンヒッペル米プリンストン大名誉教授が会議最終日11月5日の公開イベントで使ったパワポ資料からも明らかだ。

はじめに

序章その1

「先制不使用」という言葉は、no first useの訳語だ。核攻撃を受けていないのに先に核兵器を使うのが「先制使用(first use)」だ。これは、戦場での使用も含むもので、「先行使用」、「第一使用」などとも訳される。これに対して、「第一撃(first strike)」は、敵の核戦力全体に一斉に核攻撃を仕掛けて、報復攻撃ができないようにしようというものである。こちらは、核「先制攻撃(preemptive strike)」とも呼ばれるもので、「先制使用(FU=先行使用)」とは別の概念だ。

日本は、核攻撃だけでなく、生物・化学兵器や通常兵器の攻撃についても、核で報復するぞとの脅しで抑止して欲しい、と米国に求めている。「米国が先制不使用宣言をすると抑止力が弱まる」との懸念を「日本が米国に伝えた」などと報道される際の「抑止力」は、核以外の攻撃に対する抑止力のことだ。米国には、「日本の反対を無視すると、不安に感じた日本が核武装するかもしれない」との懸念がある。冷戦終焉後の米国の民主党政権が先制不使用宣言を検討し断念する度に、日本の反対が主たる理由の一つとされてきた。言い換えれば、日本は核武装の脅しによって、核の「役割と数」の両方の削減に向けたこの小さな ── しかし重要な ── 一歩を核強大国の米国が踏み出すのを阻止してきたのだ。

日本の政策が変われば、米国の先制不使用宣言の可能性が高まるというのが、これまでの米民主党政権下での状況だった。米国の一方的先制不使用宣言に反対する日本の政策を変えさせることは、日本の国民が米国の核政策に──ひいては、世界全体の核軍縮に──直接影響を与えることができる重要な課題だったのだ。

現在のトランプ政権が先制不使用宣言を検討するというのはあり得ないだろう。だが、トランプ後の時代に備えるという意味でも、米国の先制不使用宣言に反対する日本の政策の歴史について振り返っておくのは意味のあることだろう。以下、構成は、次の通りだ。

序章その2

1.先制不使用と密接な関係にある他の提言──大陸間弾道弾(ICBM)の全廃

先制不使用政策と密接な関係にあるのが偶発的核戦争の問題だ。米ロの陸上配備の「大陸間弾道弾(ICBM)」は30分ほどで相手国に到着する。サイロ配備のICBMは敵からの攻撃に対して脆弱で、敵が「第一撃(first strike)」において自国のすべてのICBMを狙って攻撃をかけてきた場合、敵ミサイルの到着前に自国のICBMを発射できなければ報復ができなくなる。そのため、ICBMは敵のICBMが飛んでくるとの警報に基づいて発射決定がされたら、数分で発射できる「警戒態勢」に置かれている。「警報即発射(LOW)」と呼ばれる態勢だ。戦略原子力潜水艦配備のミサイルの一部も同じ状態にある。これらのミサイルは「第一撃」を仕掛けるとの決定から数分で発射できることも意味するので、米ロのICBMは互いを狙い合っている格好になっている。このため互いが敵からの攻撃について疑心暗鬼に陥ってしまい、監視衛星などから来る誤情報のため報復のつもりで核戦争を始めてしまう「偶発的核戦争」の可能性が危惧されている。

先制不使用政策を採用し、米国の核兵器の役割は、敵から攻撃があればいつか核報復をするとの姿勢を示すことで核攻撃を抑止することにあるとするなら、敵がその位置を探知できない戦略原子力潜水艦の核ミサイルがあれば十分だ。米国が独自の先制不使用政策に基づいて一触即発のICBMの発射態勢、あるいは配備そのものを中止すれば、偶発的核戦争の可能性を減らせる。ホワイトハウスの高官を務めたこともあるフォンヒッペルは、上述の広島のイベントのパワポ資料で、「だからこそ、ペリー元国防長官ら多くの米国の核政策専門家が、米国は陸上配備型大陸間弾道ミサイルを廃棄すべきだと強く主張している」と述べている。スティーブ・フェター元ホワイトハウス高官が指摘(英文)するように、古くはゲームの理論で有名な戦略研究の権威トーマス・シェリングも1987年に ICBMの全廃を唱えている。

米・ロ・英・仏の約2100発が高い警戒状態に

「米国科学者連合(FAS)」の核問題専門家ハンス・クリステンセンらによると、2025年初頭現在、9カ国が保有する約1万2241発の核弾頭のうち、9614発が軍用保有核(残りは退役核)。米ロがこの83パーセントを保有。実際に運用状態の戦力に配備されているのが約3912発。これらのうち、米・ロ・英・仏の約2100発が高い警戒状態に置かれていて、短時間の内に使える状態にある(大半が米ロ)。米国の場合、400のサイロに400基のICBMが置かれ、それぞれが1発の核弾頭を搭載している。これに準備状態に置かれている50のサイロを合わせると、サイロの合計数450の態勢だ。ミサイル1基ごとの搭載数を増やせば、合計800発が搭載できる。(ロシア側は、ICBMの数が330、最大で1254発の核弾頭を搭載可能。)

2.先制不使用反対の姿勢と日本の他の核関連政策との関係

先制不使用に反対する国が核禁条約に署名できると考えるのは幻想

米国の先制不使用宣言に反対する政策が変わらない限り、日本が早期核廃絶に向けて積極的な行動をとることはあり得ない。当然、核兵器禁止条約の署名・批准もない。北東アジア非核地帯についても同じことが言える。米国に対し、北朝鮮による核以外の攻撃に核で報復するオプションを残すよう要請している限り、北朝鮮に米国が核攻撃をかけることを禁止する非核地帯(朝鮮半島+日本)の設置に日本が賛成するはずがない。国是としての非核三原則の維持が危ぶまれているが、核以外の攻撃も核報復の脅しで抑止して欲しいと言いながら、米国の核の持ち込みは絶対認めないというのは、少々虫が良すぎると米国の核兵器推進勢力から言われたら反論がむずかしい。ましてや、非核三原則を法制化して、法律で核の持ち込みを禁止するというのはハードルがさらに高くなる。日本の反核運動にとって、先制不使用問題は重要な課題だ。

先制不使用と「二つの核の傘」

日本は米国による一方的な先制不使用宣言に反対している。米国で検討されてきたのは、米国またはその同盟国が核兵器で攻撃されない限り、米国は核兵器を使用しないと一方的に宣言するものだ。これは敵対的な核保有国との緊張緩和を図る手段の一つである。このような宣言では、敵国が米国やその同盟国に核攻撃を仕掛けた場合に核で報復するオプションは維持される。だから、敵の核攻撃に対しては十分な抑止力を維持できる。つまり、すべての国による先制不使用宣言協定の合意を待つ必要などなく、米国は直ちに一方的先制不使用宣言をするべきだと宣言支持者らは主張する(例えば、オバマ政権の科学顧問を務めたハーバード大学のジョン・ホルドレン名誉教授)。

このような主張に対して、「では、敵から核攻撃があったからと言って、核で報復すること(第二使用)を認めていいと言うのか。そんなことは広島が許さない」という趣旨の批判が時々なされる。だが、ポイントは、第二使用を許すか許さないかということではない。先に使うオプションを残しておいて欲しいと米国にすがるという日本の方針は、「いくらなんでもあんまりではないか」ということだ。核攻撃に対する核報復も含め、核の使用を全面的に拒絶する立場からの主張のために「先制不使用」という考えに反対して、日本の核政策のひどさが日本国民に理解できなくなってしまうという結果を招くのは避けなければならない。

二つの核の傘 日本が望む核の傘とは

先制不使用宣言の下での核の傘と、日本政府が望む核の傘を図示すると下のようになる。

核の傘
核の傘A 核の傘B

一般のひとびとが「核の傘」と聞いて、イメージするのは左の方ではないだろうか。日本政府が望む右側の傘は、生物・化学兵器及び通常兵器が地球上から消え去って平和な世界にならないかぎり必要なものだ。だが、生物・化学兵器及び通常兵器の脅威が完全になくなることはないだろう。つまり、この右側の傘は、日本にとって永遠に必要ということになる。米国の核兵器が無くなっては困るのだ。

米の先制不使用に反対する公明党は核禁条約にも反対

平和の党を標榜してきた公明党も、「国際社会全般のコンセンサスが形成されることが先決だ」として、米国よる一方的先制不使用宣言に反対する立場を2009年に示して以来、これを変更してない。

先制不使用に反対では、当然、核禁条約に賛成のしようがない。実際、斉藤鉄夫公明党元代表は、「唯一の被爆国として、核兵器禁止条約に参加すべき」と言う一方で、次のように「核禁条約反対」の発言をしている。

「核保有国の不参加に関しては、条文の表現を変えるなど、保有国が参加できるような努力をもっとすべきだった」「保有国が一歩を踏み出せるような説得力のある条約を生み出す保有国へ努力を促す枠組みをつくることが、日本の役割。」「日米安保、核の傘によって日本が守られている日本を取り巻く諸国が核兵器を持ち、いつでも核兵器を落とせるような状況がある中で、日本の生命と財産を守らなくてはいけないという現実もある。日本の核兵器禁止条約への批准に向け努力したい。」

要するに、現状では日本は批准できないし、すべきでないとの立場なのだ。上の最後のセンテンスは、批准に向け、中ロや北朝鮮の核が無くなるよう努力したいということか。

このことに気づいている現・元公明党議員がどれほどいるだろうか。反核運動やマスコミ関係者の場合はどうだろうか。

第2章 米国民主党政権での先制不使用宣言検討の歴史

冷戦後の米国の民主党政権は、先制不使用宣言を検討してきた。冒頭で述べたように、提案された宣言が見送られるたびに、不安に感じた日本が核武装する可能性があるというのが宣言放棄の主要な理由とひとつとして挙げられてきた。以下、クリントン、オバマ、バイデンの3政権における検討と放棄の歴史について見てみよう。

クリントン政権(1993年1月~2001年1月) 冷戦終焉に伴なう最初の「核態勢の見直し」

冷戦終焉後に登場したクリントン政権の初代国防長官レス・アスピン(1993年1月~1994年2月)は1993年に米国の核政策の再検討(「核態勢の見直し(NPR)」)を命じた。アスピンは、上院議員時代に、核兵器の先制不使用、核実験禁止条約、核分裂性物質生産禁止条約は、米国の強力な新たな核不拡散戦略の基盤となり得ると述べていた(英文)。だが、アスピン国防長官が退いた後の1994年9月22日にウィリアム・ペリー国防長官(1994年2月~1997年1月)の下で出された「核態勢の見直し(NPR)」(英文 pdf)には先制不使用政策は含まれていなかった。

元米政府高官ら、米政府内にある日独の核保有化についての懸念が障害と──1997年8月末

日本とドイツが核武装するかもしれないとの懸念が米国側にあり、これがクリントン政権における先制不使用宣言の試みの重要な障害になったと聞かされたのは、1997年8月末、クリントン政権で要職を務めて退任したばかりの二人の人物──トーマス・グレアム元大統領特別代表(軍縮担当、1994ー97年)とモートン・ハルペリン元大統領特別顧問・国家安全保障会議メンバー(1994ー96年)──が日本を訪れた際のことだ。前者は、これを唯一の障害と呼んだ。後者は、いくつかの障害の一つと述べた。アスピン国防長官の考えが「核態勢の見直し」に反映されなかった背景には実務作業の責任者だったアシュトン・カーター国防次官補(1993年6月~1996年9月)と制服組の間の暗闘もあったようだ(英文)

沖縄返還交渉当時、国防副次官代理として関わったことでも知られる国際政治学者のハルペリンは、この訪日の翌年、国務省政策企画本部長(1998年~2001年)となる。

「核態勢の見直し」発表後も続いた先制不使用宣言の議論

1994年の「核態勢の見直し(NPR)」発表で先制不使用に関する議論が終わったわけではない。NPR発表から3年近くたった1997年6月17日に発行された「米国科学アカデミー(NAS)」の「国際安全保障・軍備管理委員会」による報告書『米国の核兵器政策の将来』に見られるように、先制不使用の議論が続いていた。報告書は、他国が核兵器を取得しようとするインセンティブを減らすためにも、米国は「米国の核兵器の唯一の目的は米国及びその同盟国に対する核攻撃を抑止することだと発表して、核兵器の先制不使用を公式の宣言政策として採用すべきだ」と述べている。そして、次のように続ける。「米国の通常兵器は、生物・化学兵器に対して、強力な抑止効果と戦争遂行対応を提供する。生物・化学兵器の使用には通常兵器で報復するとの脅しの方が、核攻撃で報復するとの脅しよりもずっと信憑性がある。」生物・化学兵器で攻撃があれば核で報復するかもしれないぞと脅しても、余りにも「proportionality:均衡原則」に反するから、相手はそんなことはないだろうと考えると推測されるからだ。報告書は同時に、米ロの核弾頭数の総数をそれぞれ1000発にすることを提案している(英文)

唯一の目的と先制不使用の違い

ウイリアム・ペリー元国防長官などは、どちらの宣言も実質的には意味は同じだ言う。だが、唯一の目的宣言では、敵の核攻撃が目前に迫っているとの判断あるいは口実の下での核使用を認める可能性も残るとする専門家もいる。ただし、「使用の可能性は核攻撃に対する報復に限る」と強調すれば、「先には絶対使わない」とする先制不使用と同じ意味になると理解されている
詳細は以下を参照:唯一の目的宣言と先制不使用宣言 核情報 2020年1月17日;後述の「米国科学者連合(FAS)」のハンス・クリステンセンによる『世界』寄稿記事

第一次オバマ政権(2009年1月~2013年1月)「米国戦略態勢議会委員会」報告の影響

オバマ政権誕生の前年の2008年6月30日にジョージ・W・ブッシュ大統領(子)が署名して成立した2008年度国防歳出権限法は、米国政府に「核態勢の見直し(NPR)」を義務づけると同時に、超党派の「米国戦略態勢議会委員会」の設置を定めた。委員会の報告書の役割は、次政権の「核態勢の見直し」に向けて提言するというものだ。

2010年4月に発表されたオバマ政権の「核態勢の見直し」(核情報抜粋訳)は次のように述べるに留まった。

米国は、米国あるいは同盟国・パートナーに対する核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的とすることを目標とし、通常兵器能力の強化と、非核兵器による攻撃を抑止する上での核兵器の役割の低減とを続ける。

「米国戦略態勢議会委員会」結論:米の核の傘の信頼性についての日本の懸念を考慮せよ

「米国戦略態勢議会委員会」の最終報告書(英文)に関する2009年5月6日の下院公聴会(英文)において、同委員会副委員長ジェイムズ・シュレシンジャー(元国防長官・エネルギー長官)は次のように主張した

日本は、米国の核の傘の下にある30ほどの国の中で、自らの核戦力を生み出す可能性の最も高い国であり、現在、日本との緊密な協議が絶対欠かせない…過去においては日本は旧ソ連の脅威についてはそれほど心配していなかった。しかし、最近中国がその能力を高めており、日本の懸念が高まっている。それで日本は我が国との協議を望んでおり、我が国のさらなる確約を求めているのだ。

ウィリアム・ペリー委員長(元国防長官)は、これを受けて、ヨーロッパやアジアにおける「我が国の拡大抑止の信頼性についての懸念」を無視すると「シュレシンジャー博士が言ったように、これらの国々が、自前の抑止力を持たなければならないと感じてしまう。つまり、自前の核兵器を作らなければならないと感じる」と述べた

クリントン政権の項で、トーマス・グレアム元「軍備管理・不拡散・軍縮特別代表」の訪日に同行したと紹介した国際政治学者モートン・ハルペリンは、この時「米国戦略態勢議会委員会」の委員を務めていた。彼も先制不使用宣言に反対の立場だった。同盟国の反対の強さを考えればこの段階での先制不使用宣言は好ましくないとの見解だった

「戦略態勢議会委員会」報告書に日本が与えた影響

「米国戦略態勢議会委員会」報告書策定過程において、日本は大幅な核削減や核の役割縮小については、日本の懸念を無視しないようにと求めた。これについて、米国の専門家らが警鐘を鳴らした。それを受けて、当時の日本の民主党政権の岡田克也外相が、米国国務・国防両長官に自身の考えについて説明する書簡を送っている。このような動きについてまとめておこう。

委員会の報告書作成過程における日本の動き──核兵器の役割と数の大幅削減阻止

日本は、「米国戦略態勢議会委員会」の会合(2009年2月25日)で核抑止力に関する日本の要望を伝えた。秋葉剛男公使(当時)*らがこの日提出した3ページの文書を、「憂慮する科学者同盟(UCS)」のグレゴリー・カラキーが2018年初頭に入手して公開した。この文書には、2008年10月の会合で、「日本は、米国の拡大抑止に──それが信頼性を持つ限りにおいて──依存する」と伝えたとある。信頼性が無くなれば、独自核武装をするという意味だろうか。
*2018年~2021年外務次官、2021年~2025年国家安全保障局長

秋葉文書は、「米国の配備戦略核弾頭の一方的な削減は、日本の安全保障に悪影響をもたらすかもしれない。米国がロシアとの核削減交渉を行う際には、中国の核増強と近代化について常に念頭に置くべきである。日本と十分に前もって協議して欲しい」と述べている。

文書にはさらに、「我々は、米国の抑止能力は…(f) 他国に対し、その核能力を拡大・近代化することをあきらめさせるのに十分でなければならない、と考える。」ともある。ペリー委員長は、この文言を見て途方に暮れたようで、「我々はどうすればこの要件を満たせるのか」と尋ねたと議会スタッフの手書きのメモにある。

「米国科学者連合(FAS)」のハンス・クリステンセンは、この文書が公開された直後に、核情報へのメール(2018年2月9日)で、これは「途方もなく非現実的だ」と述べている。「抑止力というのは、他国が核攻撃を行使するのを抑止するために策定され、意図されている。核戦力は、これまで一度も、敵国の核能力の拡大や近代化/現代化をあきらめさせることができたことはない。それどころか、敵側は[日本が米国に要求しているような能力によって脅かされた場合]自らの能力の近代化/現代化や──必要となれば──その拡大により、対抗しようとする傾向にある。」

当時、米NGO核問題専門家が日本の反核運動に対し警鐘 2009年3月

ハンス・クリステンセンは、秋葉公使らが議会委員会に文書を提出した問題の会合(2009年2月25日)の2週間後の2009年3月11日に核情報へのメールでこう伝えていた。「残念ながら詳細は明かせないが、しかし、日本政府関係者が最近、米国政府に対し性急で大幅すぎる削減をしないよう警告する上で、非常に重要な役割を担っていることを知っておくべきだ。トルコや東欧諸国と同様、日本の「懸念」は現在、米国内の核推進勢力が大幅削減阻止を主張する際、最も頻繁に引用する論拠となっている。」(このことは当時、核情報から数人の記者に伝えており、一部報道に繋がった。)

クリステンセンは、また、岩波書店『世界』2009年12月号(11月8日発売)への寄稿「日本の核の秘密──過去の密約の検証、継続する秘密主義の解明・解消に向けて」(和文)原文pdf) で、委員会に日本側が提出した文書に触れている。「米国の情報によると、日本政府関係者が、米国議会戦略態勢委員会に対し、太平洋における米国の核能力について[「戦略原潜及び攻撃原潜の配備」や「潜在的敵国を思いとどまらせる能力」などを含む]「欲しいものリスト」を入れたペーパーを提示したとのことである。」(クリステンセンは、この段階では、全文を入手していなかった。)

岡田外相、米国務・国防長官への書簡で「唯一の目的支持」表明 2009年12月24日

クリステンセンの『世界』寄稿記事やそれに関連した報道[*注1]を受けて、当時の民主党政権の岡田克也外相( 2009年9月16日~2010年9月17日)は、2009年12月24日に米国務・国防両長官に書簡を送り、「我が国外交当局者が、貴国に核兵器を削減しないよう働きかけた、あるいは、より具体的に、貴国の核卜マホーク(TLAM/N)の退役に反対したり、貴国による地中貫通型小型核(RENP)の保有を求めたりしたと報じられて」いるが、「特定の装備体系を貴国が保有すべきか否かについて述べたことはないと理解して」おり、「仮に述べたことがあったとすれば、それは核軍縮を目指す私の考えとは明らかに異なる」と述べるともに、「唯一の目的」支持を伝えた[*注2]

TLAM/Nは、攻撃原潜発射用の核弾頭付き巡航ミサイルのことだ。1991年9月27日にブッシュ(父)大統領が、水上艦船及び攻撃原潜から核兵器を撤退すると宣言したため、翌年以来、原潜には搭載されず、陸上で保管されていた。「戦略態勢議会委員会」の報告書は、「アジアにおける米国の同盟国の一部は、TLAM/Nの退役について非常に心配するだろう」と述べている。クリステンセンは『世界』の記事で、これは、日本が「日本の港を頻繁に訪れる攻撃原潜に核兵器を配備する可能性を承認する」ことを意味するが、非核三原則の「持ち込ませない」を「守ろうとするのであれば、TLAM/Nの退役を提唱するはず」だと指摘している。オバマ政権の2010年『核態勢の見直し』は、この核兵器を退役させることを決め、2012年に解体が終了した

現在、日本では、米国が潜水艦配備用の新型核弾頭付き巡航ミサイル(SLCMーN)を開発中であり、これが実際に配備されるようになれば、その原潜の寄港を断るのは難しいから「持ち込ませない」を見直すべきだとの論法が使われているのは、皮肉なことだ。

米国戦略態勢議会委員会元委員長と元委員、日本に「先制不使用」支持を求める
  • モートン・ハルペリン  ジョージ・バン(元米国ジュネーブ軍縮会議大使)やトーマス・シェリングら米国の他の核問題専門家らともに、オバマ大統領と鳩山首相に対し、米国の「唯一の目的」宣言を支持するよう求める公開書簡(2009年9月22日)に署名した(米国のNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」が組織)。
  • ウィリアム・ペリー  報告書に関する2009年5月の下院公聴会から半年もたたない10月に東京で開かれた日米共同政策フォーラムに招かれた際、日本に対する北朝鮮の生物・化学兵器の抑止には通常兵器による報復の威嚇で十分とし、北朝鮮程度の核兵器であれば、これも通常兵器による報復の威嚇で抑止できると述べている

第二次オバマ政権(2013年1月~2017年1月) 宣言を目指す再度の試み

第二次オバマ政権の終わりごろ、「先制不使用(あるいは唯一の目的)宣言」をすることが再度試みられた。だが、オバマ政権は、この時も宣言を断念した。

日本などの反対が宣言断念の理由の一つとの報道 2016年8月

ニューヨーク・タイムズ紙(2016年9月5日付)(英文)は「オバマ、核兵器の先制不使用の宣言しない見込み」と報じた。その理由の一つとして、ジョン・ケリー国務長官が「米国の核の傘のいかなる縮小も日本を不安にさせ、独自核武装に向かわせるかもしれない」と主張したことを挙げた。また、ウォールストリート・ジャーナル紙(8月12日)(英文)は、7月に開かれた「国家安全保障会議(NSC)」の会合について報じた記事で、(このころには改革派から守旧派に転じていた)アシュトン・カーター国防長官(2015年2月~2017年1月)が「先制不使用宣言は米国の抑止力について同盟国の間に不安をもたらす可能性があり、それらの国々の中には、それに対応して、独自の核武装を追求する可能性があるとして、先制不使用宣言に反対した」と伝えている

米国の核問題専門家から日本に対して米国の先制不使用宣言支持を求める書簡 2016年

2009年「議会委員会」のメンバーだったハルペリンは、2016年に第二次オバマ政権が先制不使用宣言を検討していた際、次の二つの公開書簡に署名している。

  1. 日本に対し米国の先制不使用(No-First-Use)政策を支持するようにと要請する米国の元政府高官・科学者らの公開書簡(2016年7月27日)
  2. 世界各国の反核運動関係者・専門家らによる安部晋三首相宛て公開国際書簡「紛争において最初に核兵器を使うことはしないと米国が約束することに反対しないで下さい」(2016年8月6-9日)。署名数合計 120 (17カ国+国際組織)。

ハルペリンは後に、これらの署名と2009年の結論の間に矛盾はないのかの問いに、次のように答えた。「矛盾はない。米国の同盟国が米国に先制不使用宣言を呼びかければ、米国政府はこの政策を採用することが出来る。私は、日本が米国政府に対し先制不使用政策を採用するよう要請することを強く支持する。」(2021年1月6日の核情報へのメール

バイデン副大統領、退陣直前に、「唯一の目的」宣言すべきとの確信表明 2017年1月11日

オバマ政権のバイデン副大統領は、退陣直前の2017年1月11日、カーネギー平和財団での演説で、次のように述べて、先制不使用(唯一の目的)宣言をすべきだとの考えを示した。

我が国の核兵器以外の能力、それに今日の脅威の性格を考えれば、米国による核兵器の先制使用が必要となる──あるいはそれが意味を成す──信憑性のあるシナリオを想像するのは難しい。オバマ大統領と私は、核以外の脅威は、核以外の方法で抑止し、わが国及び同盟国を守ることができると確信している。…「核態勢の見直し」の指示から7年、大統領と私は、これまでに目標達成に向けて十分な進歩を遂げており、核攻撃を抑止すること──そして、必要とあれば報復すること──を米国の核兵器の唯一の目的(役割)とすべきであると確信している。

バイデン政権(2021年1月~2025年1月) 「核態勢の見直し」での宣言を検討

バイデン大統領は、2019年の大統領選挙運動中の7月11日、次のように約束した。副大統領として最後の「2017年1月に言ったように、私は、我が国の核兵器の唯一の目的は核攻撃を抑止し、必要なら、核攻撃に報復することであるべきと信じており、同盟国及び軍部と協議してこの信念を実現するために力を尽くす。」
 
しかし、2022年10月27日に公開されたバイデン政権の「核態勢の見直し」(議会へ機密バージョン送付は3月28日)では、「我々は、唯一目的宣言に移行するという目標を保持しており、同盟国やパートナー国と協力して、それを可能にする具体的なステップを特定する」(米国防省訳)と述べるにとどまった。

バイデン政権の宣言放棄も日本の反対が一つの理由との報道

英紙フィナンシャル・タイムズ(英文)が2021年10月30日、ヨーロッパの英・仏・独や、インド・太平洋の日豪などがバイデン政権に政策変更反対を伝えたと報じた。読売新聞(2021年11月10日付)によれば「日本政府は『先制不使用は中国などへの誤ったメッセージとなり、抑止力が低下する』((外務省幹部)との懸念を非公式にバイデン政権に伝えた」という。

低下する「抑止力」とは、核攻撃以外の攻撃に関するものと思われる。このような発言があった際、記者諸氏は、それはどのようなシナリオにおいてなのかと聞き、その答えについて報道すべきだ。それは、尖閣諸島で中国が軍事行動というものか? 台湾を巡って中国が日本の米軍基地に通常兵器で攻撃というものか?

米国の専門家ら、日本に米の先制不使用支持を要請

ペリー元国防長官 プラウシェアーズ財団のトム・コリーナ政策部長との共著『ボタン』で

『ボタン』(発行2020年6月30日。邦訳『核のボタン』 2020年7月20日)は日本に次のように呼びかけている。*時期的には、第一次トランプ政権時代(2017年1月~2021年1月)末。

「日本のような米国の同盟国は、[核以外の攻撃に]核で報復するぞという米国の威嚇は信憑性がなく、これらの国々の安全を高めはしないと悟るべきである。……核攻撃を受けた唯一の国として、また、核廃絶を支持する国として、日本は、その目標に向けた一歩として先制不使用を支持すべきである」(核情報訳)

なお、二人は、この共著書の中で、米国のとるべき政策として、先制不使用とともに、「大陸間弾道ミサイル(ICBM)」の全廃を提唱している。ICBMには「第一撃」以外の役割はないとの考え方からだ。

元オバマ政権高官、同政権の核兵器の先制不使用案は「日本の反対で断念」 と証言:東京新聞 (2021年4月6日)

米オバマ政権が2016年に検討した核兵器の先制不使用宣言に関し、国務省の核不拡散担当だったトーマス・カントリーマン元国務次官補が、対中抑止力の低下を懸念した日本政府が反対したことが宣言を断念した最大の要因だったと証言した(東京新聞)。

米核問題専門家ら、菅義偉首相ら日本の主要政党代表に要請 2021年8月

長崎原爆投下76周年を迎えた2021年8月9日、投下した側の米国の核問題専門家らが、日本の菅義偉首相ら主要政党党首に対し、米国の先制不使用宣言に反対しないでと呼びかけた。

バイデン政権が先制不使用・唯一の目的政策を宣言することに反対をしないと宣言し、このような政策が日本の核武装の可能性を高めることはないと確約して下さるよう要請いたします。

*署名:ウィリアム・ペリー、モートン・ハルペリン、フランク・フォンヒッペル、スティーブ・フェター(元オバマ政権高官)ら21人と、「米国科学者連合(FAS)」、「憂慮する科学者同盟(UCS)」、草の根反核平和団体「ピースアクション」など5団体

第3章 米国の先制不使用宣言に反対する日本の政策の歴史

日本における先制不使用を巡る議論は、1982年に遡ることができる。通常兵器による侵攻にも核報復で対処し得るというNATOの方針と同様の考えが日米間にあるかと国会で問われた際に、政府関係者が、そうだと答える。そして、1999年に高村正彦外相が先制不使用政策に反対する理由を説明し、これがその後の答弁のひな形となる。2009年の民主党政権時代に、このひな形の変形型の答弁が官僚機構によって作成され、これも使われるようになる。

以下、この流れについて要約しておこう。

1982年 先制使用オプションを支持する国会答弁:NATOと同様かと問われ

日本における先制使用・不使用を巡る議論の起源は、1950年代に採用されたNATOの核政策にある。1948年6月に東西共同で占領していたベルリンをソ連が封鎖した「ベルリン危機」でソ連側の通常兵力の優位がクローズアップされる中、1949年に「北大西洋条約機構(NATO)」が設立され、これに対抗する形で1955年5月14日に「ワルシャワ条約機構(WTO)」が設立された。ソ連・ワルシャワ条約機構(WTO)の通常兵力は圧倒的優位を誇っているとみなされていた。このため、NATOでは、敵側の小規模の通常兵力による進攻に対しても大規模な核報復で応じる(あるいはその姿勢により進攻を抑止する)との考えが採用された。1982年、NATOと同様の方針について「日米間に合意並びに協議というのはある」のかと横路孝弘議員(社会党)が国会で質問する。

一連の質疑の中で、宮澤喜一官房長官その他の政府側代表が、NATOと同様の考えについて日米で合意していると答えた。ハト派と見られていた宮澤喜一官房長官(前外務大臣)は、1982年8月4日の参議員安全保障特別委員会で次のように述べている。「我が国に対して加えられることがあるべき攻撃に対して、かりに通常兵器だけでそれを抑止するような十分な力にならないという状況であれば核兵器も使用されることあるべし、と、絶対に核兵器が使用されることがないというのではこれは抑止力になりませんから、通常兵器と核兵器と総合した立場で抑止力というものを考える、それは私はごくごく当然の立場ではないかというふうに思っておるわけであります。」

1999年 高村外相、「先制不使用反対」の国会答弁──のちの答弁のひな形に

1999年に高村正彦外相が民主党の玄葉光一郎議員の質問に答える形で、先制不使用に反対する理由を述べた。これがその後何度も繰り返される政府答弁のひな形となった。まず、質問の時代背景を年表風に確認してから、高村答弁の中身を見てみよう。

●玄葉議員の質問の時代背景
  1. 1996年、オーストラリア政府が主催した「核廃絶に関するキャンベラ委員会」の報告書が核保有国間の先制不使用の合意を早急に実効することを呼びかけた。
  2. 1997年、「米国科学アカデミー(NAS)」の「国際安全保障・軍備管理委員会」による報告書『米国の核兵器政策の将来』が、米国による一方的な先制不使用宣言を提唱した。
  3. 1998年6月9日、「新アジェンダ連合(NAC)」と呼ばれる8カ国が『核のない世界に向けて──新しいアジェンダの必要』という宣言で「核保有国の間での先制不使用の共同の約束」を要求した。(日本は、先制不使用の項目に反発し不参加)。
  4. 1999年7月25日、日本政府が主導して作成された「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」報告書が「NATOとロシアが核ドクトリンにおいて先制使用のオプションを維持している限り、(先制不使用の)誓約に関する交渉は複雑なものとなろう」 と論じた。

玄葉議員の2段階の質問と、それに対する答え

二つ質問 (1)「米国の独自宣言」について(2)「核保有国同士の合意」について

上の年表でみたような状況を背景に、1999年8月6日の衆議院外務委員会で、玄葉議員は、高村外相にこう問いかけた。「(1) もし米国が核の先制不使用を宣言した、(2)あるいは核兵器保有国同士が核の先制不使用の協定を結んだ、そうしたときに、日本の安全保障にとっては何が困るのか。」(番号挿入は筆者)。

これに対し高村外相は次のように答弁した。「いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えている。」 発言全体の文脈から、この部分における先制不使用反対の二つの理由は以下のように言い換えられる。

  • ①核以外の「大量破壊兵器を含む多大な軍事力(=生物・化学兵器及び大量の通常兵器)」による攻撃も、核による報復の脅しによって、抑止する必要がある。
  • ②日本の敵国が「核の先制不使用」を約束する共同宣言に参加しても、その約束に関する敵側の「意図に関して何ら検証の方途がない」

理由①は、核報復の脅しによって、侵略行為全般(=生物・化学兵器及び大量の通常兵器によるものを含む)を抑止しようというもので、これは米国の一方的単独宣言で何が困るかという玄葉議員の「質問(1)」に対する直接的な回答である。敵の先制不使用の約束がたとえ検証可能であっても、米国には先制不使用宣言をして欲しくないということになる。序章その2で見た傘の絵で言えば「核の傘B」が欲しいということだ。

玄葉議員の「共同宣言に関する質問(2)」への回答である理由②は、「検証の方途」があれば日本が賛成できるかに思わせる。だが、これは、「核以外の攻撃も、核による報復の脅しによって、抑止する必要がある」とする理由①と矛盾する。

玄葉議員の二段構成の質問形式が、結果的に米国の一方的宣言問題の焦点をぼかしてしまった。そして、高村外相の回答は、米国の一方的宣言だけに関する質問に対しても、歴代首相や政府高官の回答のひな形として使われてきた。

2009年民主党鳩山政権答弁 「一方的宣言に関する回答」としての理由②の使用例

聞いたのが公明党、答えたのが民主党鳩山政権という皮肉

一方的先制不使用宣言に反対する議論で理由②を使う例の一つが、2009年の民主党政権による回答に見られる。岡田克也外相(当時)は、米国の先制不使用宣言を支持する立場で知られていた。11月10日、米国の核兵器先制不使用宣言に関して問う質問主意書に対して、政府は鳩山由紀夫民主党首相名の答弁の冒頭で、「有意義」という言葉を入れて答えている。

核兵器の先制不使用宣言は、すべての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではなく、これを達成するには、まだ時間を要するものと考えている。

これは、理由②の変形版といえる。続く第2段落で、「国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど」と理由①を展開した。

質問は米国の「即時・一方的宣言」についてだった(つまり、玄葉議員の質問(1))。だが、回答は理由②の変形版「有意義でない」)になっている。これが冒頭で使われたことにより、問題の本質が曖昧になっている。この答弁は明らかに、政権交代とは関係なく居続けた官僚機構によって準備されたものだ。

質問したのは、直前まで自公政権において与党であり、米国の一方的先制不使用宣言に反対の立場をとる公明党の浜田昌良議員、答えたのは、先制不使用支持の立場をとる岡田外相のいる民主党鳩山政権というなんとも不可思議な構図だ。

2021年茂木答弁 鳩山政権型答弁の活用例

鳩山政権型答弁の活用例が、茂木敏充外相(当時:自民党)の2021年4月6日の記者会見で見られた。オバマ政権が日本の反対により先制不使用宣言を断念したとの元政府高官の証言を引用した前述の記事(東京新聞)に関する答弁だ。

米国が核先制不使用宣言を検討するということについてどう考えるかとの質問を受けて茂木外相はこう答えた

全ての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではないと。現時点で、当事国の意図に関してなんら検証の方途もない核の先制不使用の考え方に依存して、日本の安全保障に十全を期すことは困難だと。

これは、民主党の鳩山由紀夫首相型の理由②変形版と高村答弁の理由②を合体させたものだ。茂木外相は、理由①には言及していない。

一方、同日の加藤官房長官の回答では、茂木外相の発言をほぼそのまま読み上げた後、最後に理由①が言及されている。

「攻撃を受けたら撃ち返す」で「十分じゃないか」と岡田元外相

2021年4月21日、茂木外相に

茂木外相は、2021年4月21日、衆議院外務委員会で立憲民主党(当時)の岡田克也元外相(民主党鳩山政権)から、カントリーマン発言について聞かれた際にも、記者会見の時とほぼそっくりの「合体版」答弁をしている。

これに対し、岡田元外相は、「攻撃を受けたら撃ち返す」で「十分じゃないか」と応じている)。

先制不使用というのは、もちろん攻撃を受けたら撃ち返すことまで否定しているわけじゃありませんから、それで十分じゃないかと私は考えるんですが・・・
最大の核保有国であるアメリカがそれを言うということは、核の役割を減らしていく、核軍縮の大きな一歩になる、その可能性があるだけに、私は、日本だけの立場で狭く考えてそれを否定してしまう、しかも、その日本の否定が元になってアメリカの政策が打ち出せなかったというのが、これは極めて残念なことだというふうに思うんですね

2022年8月、岸田政権がNPT再検討会議に派遣した外務副大臣、記者らに先制不使用には反対と

2022年8月の第10回NPT再検討会議の最終文書草案に、「核保有国に先制不使用政策採用を求める」文言が入った際、「広島選出で核廃絶をライフワークとする」岸田文雄首相が現地に派遣した武井外務副大臣は、8月23日、記者らに「『核の先制不使用』について、日本の安全保障に『十全を期すのは困難』」(産経8月24日)と高村式反対を表明をしている。

また、共同(同26日)は次のように報じた。最終文書草案の問題の記述に「米政府が反対し、削除を求めていたことが25日分かった。米政府関係者が明らかにした。米国の『核の傘』の下にある日本や欧州の同盟国の抑止力低下に対する懸念に配慮した形」。

2014年 岸田外相(当時)の本音

なお、2014年4月25日の衆議院外務委員会で、河野太郎議員(自民党・後に外相)から「アメリカに対して、核以外の攻撃に対して核の傘の提供を断ったこと」があるかと問われた岸田文雄外相(当時)は次のように答弁している。「米国の核兵器は……核兵器国及び自国の核不拡散義務の非遵守国による通常兵器または生物化学兵器による攻撃を抑止する役割を依然として担う可能性は残っている。」これは日本の本当の立場をより明確に示している。

繰り返される「残念な」状況──国民は知らされているか

結局、先に見た通り、バイデン政権は「先制不使用・唯一目的宣言」を断念した。

岡田議員のいう「残念な」状況がバイデン政権の検討の際にも繰り返されてしまった。

日本の反核運動やマスコミは、米国の先制不使用宣言に反対する日本政府の立場が米国の宣言を阻止してきたというこの「残念な」現実について国民に広く知らせることができるだろうか。


  1. 岡田外相が対応した記事の例

    ↩︎
  2. 岡田書簡からの抜粋:
    日本側が働きかけたとされる内容について

    「我が国外交当局者が、貴国に核兵器を削減しないよう働きかけた、あるいは、より具体的に、貴国の核卜マホーク(TLAM/N)[核弾頭搭載型巡航ミサイル] の退役に反対したり、貴国による地中貫通型小型核(RNEP)の保有を求めたりしたと報じられています。・・・前内閣[麻生政権]の下で行われた協議協議ではありますが、私は、我が国政府として、上記委員会を含む貴国とのこれまでのやり取りの中で、TLAM/NやRNEPといった特定の装備体系を貴国が保有すべきか否かについて述べたことはないと理解しています。もし、仮に述べたことがあったとすれば、それは核軍縮を目指す私の考えとは明らかに異なるものです。・・・

    日豪共同イニシアチブで設置した「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の報告書(2009年12月15日)にある核兵器の目的を核兵器使用の抑止のみに限定すべきとの勧告に言及して:

    直ちに実現し得るものではないかもしれませんが、現在あるいは将来の政策への適用の可能性について、今後日米両国政府間で議論を深めたいと考えています。

    出典:岡田外相、昨年末、核付きトマホークの延命を求めないと米国に書簡 核情報 2010年1月27日

    *ICNND報告書については次を参照
    先制不使用問題3報告書比較:キャンベラ委員会・東京フォーラム・ICNND 核情報 2010年2月1日

    ICNND 2009年 (報告概要 外務省訳)
    C. 核軍縮の課題への対応:主要政策
       ・・・

    • 核政策 最終的な核兵器廃絶に至るまでの間、すべての核武装国は、可能な限り早期に、かつ遅くとも2025 年までに、明確な「先制不使用」宣言を行うべき。[ 17.28]
    • 現時点でそこまで進む用意ができていない国は、特に米国はその核態勢見直しにおいて、少なくとも、核兵器保有の「唯一の目的」は、自国又はその同盟国に対し他国が核兵器を使用することを抑止することである、という原則を受け入れるべき。
    • このような2 つの宣言によって影響を受ける同盟国は、生物・化学兵器によるものも含め、他の容認できない危険にさらされることがないという強固な保証を与えられるべき。[17.28-32]
    • すべての核武装国は、NPT を遵守している非核兵器国に対して核兵器の使用は行わないという新しくかつ明白な消極的安全保証(NSA)を、拘束力のある安全保障理事会決議に裏付けられた形で与えるべき。[17.33-39]

    *ICNND報告書の英日全文・概要などについては以下を参照
    核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND) 外務省

    ↩︎

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