核情報

2004.3.25

米国、ロシアをねらった多弾頭温存を計画

米国のサンフランシスコ湾東側の新聞グループ「ANG」加盟諸紙が、米国国防省は、大陸間弾道弾(ICBM)ミニットマンIIIに多弾頭搭載の可能性を検討していると報じました。(Trivalley Herald記事・英文)現在の計画では、500基のミサイルに合計800発の弾頭を搭載することになっているとのことです。米国が核軍縮の柱としてきたICBMの多弾頭搭載禁止の政策に逆行するこの動きの意味について、まとめておきます。ミニットマンIII─グローバルセキュリティーのサイトから

元々の計画は、2007年までに、大陸間弾道弾(ICBM)をミニットマンIII、500基だけにし、それぞれ3発の核弾頭を搭載できるようになっているのを、1発だけの搭載に変えて、ミサイル500基、弾頭500発という態勢にするというものでした。ところが、ミサイル500基、弾頭800発にするとの計画が明らかになったのです。→『エア・フォース・マガジン』の記事の引用へ →同記事の元になったインタビュー和訳ミニットマンIII─大気圏外を飛ぶ弾頭想定図─グローバルセキュリティーのサイトから

START2では、米ロともに大陸間弾道弾(ICBM)には、一発ずつしか弾頭を載せないことにして戦略的安定性を達成するという計画でした。START2を締結したのは、父親ブッシュの政権です。同大統領は、1基のミサイルに複数のミサイルを載せて、それぞれ別個の目標を攻撃できる「MIRV(複数目標多弾頭)」と呼ばれるシステムを「もっとも不安定化を招く戦略兵器」と呼び、MIRVを禁止するSTART2の「この措置は、われわれの核兵器のもっとも不安定な部分を除去することになる」と述べていました。

MIRVが戦略的不安定を招くというのはつぎのような意味です。
強化されたサイロに入っているミサイルの破壊を保証するには、複数の弾頭が必要になります。対峙する二つの国が同じ数のICBMを所有している場合、単弾頭だと、自国のミサイルを全部使っても、敵のミサイルのすべてを破壊することはできません。そうすると先制攻撃で相手のミサイルの破壊をねらった側は、簡単に報復攻撃を受けてしまうことになります。1基のミサイルに複数の弾頭が搭載されていると、自国のミサイルの一部を使って、サイロに置かれたままの敵のICBMをすべて破壊することが論理的には可能になります。攻撃をかけられそうだと思った側は、やられる前にやってしまえと攻撃をかける可能性がでてきます。また、実際に攻撃をかけられた場合(あるいは、そう思った場合)敵のミサイルが到着する前に自国のミサイルをすべて発射しないと、報復ができなくなると考えます。それで、一方では、先制攻撃をかける誘惑が増えると同時に、もう一方で、先制攻撃をかけられていると誤解した側が、誤認に基づいて、ICBMを一気に発射してしまう可能性が増えてきます。

ロシア議会は、START2の批准の条件として、「対弾道弾ミサイル(ABM)」制限条約の遵守を挙げました。ブッシュ現大統領は、2001年12月、ミサイル防衛計画に対する足かせになるとABM制限条約脱退を宣言し、同条約は、6ヶ月後の2002年6月13日に失効しました。翌日、ロシアは、もはやSTART2の規定には束縛されないと宣言しました。
2002年5月24日に調印され2003年6月1日に発効した「戦略攻撃兵器削減条約(モスクワ条約)」は、2012年末までに、戦略核兵器の数を2200発以下に削減することを定めているだけです。→参考

調印に際して、ブッシュ大統領は、「プーチン大統領と私は、今日、両国間の長い対立の時代に終止符を打ち、全く新しい関係を切り開いた」と宣言しました。

ロシアは、多弾頭搭載のミサイルを維持すると何度も述べています。

たとえば、2003年12月17日、ロシアの戦略ミサイル空軍の責任者は、10発の核弾頭を積んだSS18の配備を、後、10年か15年続けると述べています。START2の下では、2007年末には廃棄となるはずのものでした。また、ジェインズ・ディフェンス・ウイークリー誌(2004年1月28日)は、ロシアは、既存の単弾頭型のICBMの寿命がつきて行くに従い、多弾頭の移動型ICBMの配備数を増やしていく計画であり、特に4−6弾頭の移動型トポルMの配備を始める計画だと報じています。さらに10弾頭の新型ICBMの開発も今年から始めることを計画しているといいます。

また、大規模演習中の2月18日に行ったミサイル発射実験は、ミサイル防衛に対抗するために軌道を変えられる型の弾頭を使ったものだったとロシア国防省は発表しています。

米国側の多弾頭搭載ミサイル温存計画の存在について指摘し、冒頭で触れたANGの記事でも引用されている「自然資源防護協議会(NRDC)」のハンス・クリステンセンは、原水禁に送ってきたメールで次のように述べています。

「この計画は、現在では放棄されてしまったSTART2で米国が勝ち取った陸上配備の多弾頭ミサイルの禁止から初めて公式に離脱するものであり、ブッシュ政権による米国の核政策の逆行の最新の例である。おそらくは、2002年にロシアが多弾頭のICBMを維持すること−−モスクワ条約では許されているもの−−を決定したことに対応したものだろう。そして、米国の核計画がロシアに照準を合わせていることを示すものである。米国の「核態勢の見直し」が、米ロの核関係は、もはや、相互確証破壊に基づくものではなく、核計画はもはやロシアに対する即時的事態を中心にしたものではないと述べているにも関わらず。」

冷戦時代のような大規模な軍拡競争が直ちに始まると言うことではないにしても、もはやお互い敵でないと言っている両国がこのような核のルーレットを続け、世界中を核戦争の危険に巻き込んでいる状況は、サム・ナン元米国上院議員が発した『われわれの兵器が、われわれの政策を定めているのだろうか。われわれは、機械に支配されてしまっているのだろうか。』という疑問を思い起こさせるものです。→参考


問題点・データの整理

昨年夏現在の米国の大陸間弾道弾(ICBM)の配備状況は?

ミサイル数  弾頭総数 
ミニットマンIII 500基 1200発  3発/基搭載可(現在は1発搭載と3発搭載がある)
ピースキーパー  40基  400発 10発/基搭載可
→参考

元の計画で目指されていたICBMの態勢は?

ミニットマンIII 500基 総弾頭数500発
ピースキーパー 3週間に1基の割合で、配備から外していく 
ミニットマンIII 2007年までには、すべて1発の搭載

現在の計画は?

ミニットマンIII 500基 総弾頭数 800発
以下は退役軍人からなる「空軍協会」が発行する『エア・フォース・マガジン』誌2003年10月号の「将来のミサイル戦力」より:
モスクワ条約で定められた「2012年に作戦配備の核弾頭の数を2200発にするという目標達成のために、第2波の削減をどのように扱うつもりかについて政府はまだ発表していない。政府の担当者らは、3弾頭のミニットマンIIIからさらに弾頭を外すつもりではいる。2001年、米国空軍は、ワイオミング州ウォレン基地の部隊が運営している150基のミニットマンIIIを、1基当たり3弾頭から、1基当たり1弾頭方式に「ダウンロード(積載低減)」した。残りの350基のミサイル−−モンタナ州マルストローム空軍基地、ノースダコタ州マイノット空軍基地は、まだ、それぞれ核弾頭を3発ずつ搭載する能力を持っている。ペンタゴンの空軍核・拡散対抗ディレクターのロバート・L・スモーレン少将は、ミニットマンICBMのすべてが単弾頭式になるわけではないという。現在の計画は、ICBM500基で総数800発の核弾頭を維持することになっている。たとえば、150基は、3発の再突入体を配備できるままにして、350基を1発だけにするという具合である。」
*ピースキーパーは、当初計画度通り、完全に配備から外す予定。
 3年計画 最初の2年は、17基ずつ、最後の1年は、16基を配備から外す。 
 2002年10月、最初の1基を配備から外す。 
 2005年10月に最後の1基を配備から外す。
 →同記事の元になったインタビュー和訳 

ABM制限条約とは?

 1972年に米ソの間で署名され発効し、74年に改正された弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約は、全土防衛のために弾道弾迎撃ミサイル(ABM)を配備することを禁止していた。弾道弾迎撃ミサイルというのは、要するに飛んでくるミサイルを打ち落とすミサイルである。配備が認められたは、首都又は大陸間弾道弾(ICBM)のサイロ(地下発射台)周辺のどちらか一ヶ所の半径150キロメートル以内の地域で、迎撃ミサイルの数は100基以下に制限されていた。これは、迎撃ミサイルを増やせば、相手国がそれを上回る数の攻撃ミサイルを増やそうとして、果てしない軍拡競争が続くことを恐れてのことである。2001年12月の米国の脱退宣言によって、2002年6月13日失効。

MIRVとABMの関係は?

元々、MIRV構想がでてきた背景には、ABMの開発の動きがあった。ABMで弾頭を全部撃ち落とされないようにする一つの手段は、弾頭の数を増やすこと。ミサイル1基に1発搭載では、費用効率が悪いから、一つの弾頭に数多くの弾頭を載せる方が効果的。
それでICBMへの多弾頭の搭載を禁じたSTART2の条件としてABM制限条約の遵守を挙げたロシア議会の批准文書の論理がでてくる。
→参考


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