核情報

2003.12

広島に原爆を投下したB29爆撃機「エノラゲイ」展示と抗議行動

 ワシントン・ダレス国際空港の近くに新設されたスミソニアン航空宇宙博物館のスティーブン・F・ウドゥバール・ヘイジー・センターで2003年12月15日からエノラゲイが展示されている。展示開始に際して、被害の状況について説明せず、「すばらしい技術的成功」として展示することに「核の歴史と現在の政策に関する全国的議論のための委員会」が抗議した。委員会は、ピーター・カズニック(アメリカン大学核問題研究所所長:歴史学教授)、ケビン・マーティン(ピースアクション事務局長)、ダニエル・エルズバーグ(『秘密:ベトナムの回顧録』『ペンタゴン・ペーパーズ』著者)の3人による呼びかけ文(10月23日)を発表して「原則の声明」への署名を集め、展示開始時には次のような行動を展開した。

12月12日 9:00 記者会見(ナショナル・プレス・クラブ)
  主催:「核の歴史と現在の政策に関する全国的議論のための委員会」

12月13日 終日 アメリカン大学でエノラゲイ問題の集会/セミナー
  21世紀におけるヒロシマ:われわれは過去を繰り返すのか(プログラム
  共催:「核の歴史と現在の政策に関する全国的議論のための委員会」及び「アメリカン大学核問題研究所」

12月14日 ワシントン・ナショナル・カテドラル及びプレスビテリアン教会での礼拝・集会

12月15日 午前中 エノラゲイ展オープニングにあわせ現地で記者会見/抗議行動

10月23日に発表された 「核の歴史と現在の政策に関する全国的議論のための委員会」声明は下のとおり。

日本からは日本被団協や原水禁の代表らが行動に参加した。


10月23日の書簡(粗訳)

 親愛なる友人へ 学者、退役軍人、聖職者、活動家、学生その他関心を持つ個人からなる委員会が、形成されつつある。エノラゲイを「すばらしい技術的成功」としてのみ展示するスミソニアンの計画に異議を唱えるためである。計画されている展示は、歴史的文脈や原爆投下に関し今も続いている論争について触れていないだけでなく、死傷者の数に関する基本的情報さえ含んでいない。われわれは、つぎのような原則の声明を作成した。これを広範に配布することを計画している。声明で明確にしているのは、われわれは飛行機を公正な責任あるかたちで展示することには反対してはいないが、このようなお祝いのような展示では、1945年に起きたことを正当化するとともに、ブッシュ政権の危険な新しい核政策の支持を形成することに繋がることを恐れているという点である。われわれは、実際、1945年の原爆投下と現在の核問題についての全国的議論についてはこれを歓迎し、われわれ自身、これを開始する所存である。しかし、公のキャンペーンを開始し、公式にスミソニアンに接触する前に、信頼性を勝ち取り、マスコミの関心を引く上で力になれる少数の有名な個人からの声明に対する支持を求める。もっと積極的な参加は、もちろん、大歓迎であり、好ましい。しかし、すぐにできることとして、あなたの名前をわれわれのリストに載せて良いか、そして、どのように肩書き・説明を使えば良いかお知らせいただきたい。


ピーター・カズニック
(アメリカン大学核問題研究所所長:歴史学教授)

ケビン・マーティン
(ピースアクション事務局長)

ダニエル・エルズバーグ
『秘密:ベトナムの回顧録』『ペンタゴン・ペーパーズ』著者


「核の歴史と現在の政策に関する全国的議論のための委員会」
原則の声明(粗訳)

 世界で最も訪問者の多い博物館、スミソニアン国立航空宇宙博物館館長ジョン 「ジャック」デイリー将軍は、エノラゲイ−−広島に原爆を投下したB29スーパー フォートレス(超「空の要塞」)−−を、ワシントン・ダレス国際空港に新設された 同博物館のスティーブン・F・ウドゥバール・ヘイジー・センターの目玉として展示 するとの計画を発表した。最近の推定によると、1945年8月6日の攻撃は、14 万人以上の死をもたらした。3日後に長崎に投下された2発目の原爆は、7万人の死 をもたらしたと推定されている。そして、多くの科学者が事前に警告したとおり、そ して、トルーマン大統領が明確に理解していたとおり、広島と長崎を焼き尽くしたこ とは、人類の死滅をもたらしうる核軍拡競争を開始することになった。この危険は現 在も続いている。

 核時代の到来の重大な意味合いを認識し、1999年に、著名なジャーナリスト・学 者たちからなる全国的パネルが、その投票で、米国による広島・長崎への原爆投下 を、20世紀の最も重大なニュースに選んでいる。被害者に対する驚くべき無感覚 と、これらの攻撃の適切さに関して米国民の間に深刻な意見の対立があることについ ての無頓着、そして、世界の人々のほとんどが持つ感情の無視を反映するかたちで、 博物館のデイリー館長は、宣言した。「われわれは、それ[エノラゲイ]を、すばら しい技術的成功として、栄誉あるかたちで展示する」と。実際は、この飛行機は、他 のB29とほとんど変わるところはなく、有名になったのは、その使命の恐ろしい、 歴史を変える性格のためだけである。

 デイリーの発言は、ドゥワイト・アイゼンハワー将軍による原爆投下批判、それに、 第二次世界大戦の軍事的指導者たちの中で疑問を呈した者の多さ、ウイリアム・リー ヒー海軍大将の度重なるコメントによく現れているような感情などに照らした場合、 特にショッキングである。トルーマンの戦時中の首席補佐官で、統合参謀本部議長を 務めたリーヒー海軍大将は、つぎのような辛辣な観察を示している。「広島・長崎に おけるこの野蛮な兵器の使用は、日本に対するわれわれの戦争において、重要な助け にはならなかった。日本は、すでに、負けており、降伏の用意ができていた・・・そ れを最初に使ったことにより、われわれは、暗黒時代の野蛮人の間で一般的だった倫 理的水準を採用してしまったのである。」

 世界中の人々は、すでに、この展示に対して強い反対の声を上げている。日本におけ る主要な被爆者組織である被団協と原水協は、デイリーに書簡を送り、つぎのように 主張している。「展示は、原爆投下を正当化するものであり、その意味において、決 して許すことはできない・・・原爆は、一般市民を無差別に殺戮し、人道的に正当化 することのできない兵器である。現在でも、多くの犠牲者が後遺症に苦しめられてい る。」米国人も、重要な問題を避けながら原爆投下を暗に祝福する展示を黙認するこ とはできない。1995年にこれらの問題の処理を誤ったことによって、スミソニア ンは、米国の組織の誠実さ、品性、公平さなどについての国際的な疑問をもたらすこ とになってしまった。われわれは、今回は、同じような結果を避けられることを願っ ている。そのため、宗教的指導者、退役軍人、科学者、歴史家その他の学者、市民の 活動家、学生からなる特別委員会を作った。われわれをつないでいるのは、このよう な展示を計画通り進めるべきではないとの信念である。

 しかし、われわれは、エノラゲイの展示に反対しているのではない。それどころか、 われわれは、1945年の原爆投下、それに、現在の米国の核政策について、正直で バランスのとれた議論を巻き起こす展示なら歓迎する。われわれが最も心配している のは、現在計画されている展示では、1945年の原爆投下がもたらした問題は扱わ れないということ、そして、トルーマン大統領による核兵器の使用が、核兵器の将来 の使用の敷居を下げようとするブッシュ政権の現在の試みを正当化してしまうという ことである。国立航空宇宙博物館の意図が何であれ、1945年の原爆投下をお祝い のようなかたちで扱うことや、最初の原爆を投下した飛行機を単に「すばらしい技術 的成功」としてのみ展示することは、博物館とこの国にとって不名誉なことであり、 核兵器を当たり前のものにして、その将来の使用を容易にしようとする勢力の目的に かなったものになる。

 われわれは、この展示、大統領選挙、そして、もうすぐ訪れる原爆投下60周年を、 米国の核の歴史と現在の政策について全国的議論を巻き起こすために活用するつもり であり、他国の同じような考えの人々と協力していく。ほとんどの米国人は、 2001年の米国の『核態勢見直し』が採用した政策の変化−−この見直しの結果、 ニューヨークタイムズ紙は、米国を「核のならず者」国家と非難ーーや、「より使い やすい」新世代の核兵器を作るために米国政府がとっている措置などについて、気づ いていない。その重要性について、国際的指導者らは見逃していない。秋葉忠利広島 市長は、8月6日のその評判となった『平和宣言』においてつぎのように警告してい る。「核兵器をなくすための中心的な国際合意である、核不拡散条約体制が崩壊の危 機に瀕している・・・。核兵器先制使用の可能性を明言し、『使える核兵器』を目指 して小型核兵器の研究を再開するなど、『核兵器は神』であることを奉じる米国の核 政策が最大の原因です。」言い方を変えるなら、カーネギー平和財団の核問題の専門 家であるジョセフ・シリンシオーネが指摘しているとおり、ブッシュ政権は、現在、 「核兵器はもはや最後の手段の兵器ではない」と言っているのである。

 過去及び現在の核政策について、焦眉の急である全国的議論を始めるために、「核の 歴史と現在の政策に関する全国的議論のための委員会」は、スミソニアン・インス ティテューションのローレンス・スモール書記、ジョン・デイリー、その他指導者に 対し、われわれの代表やその他の関心を持つ団体の代表らと膝を交えて話し合い、展 示を共同で計画することによって、原爆投下を歴史的文脈の中に置き、核の核兵器の 利用の結果について見学者に教え、エノラゲイの配備前からあった原爆使用に関する 論争について説明するようなものにすることを呼びかける。

 われわれはまた、スミソニアンに対し、広島・長崎の原爆投下と、現代の世界におけ る核兵器の位置について検討する共同会議、あるいは、一連の会議を共催するよう呼 びかける。公正でバランスのとれた提示と、関連した重大な問題の多くについて理性 に基づく議論を呼びかけるこの要請をスミソニアンが拒否する場合は、現在の核危機 の深刻さに鑑み、われわれは、この国、そして、世界の他の人々と一緒になって、現 在のかたちでの展示に抗議し、重要な核の問題について全国的な議論を巻き起こすこ とになるだろう。 

  (ここのサイトに署名者の部分的リストがある。)



13日土曜 集会(American University:Kay Chapel) プログラム

21世紀におけるヒロシマ: われわれは過去を繰り返すのか

共催:「核の歴史と現在の政策に関する全国的議論のための委員会」及び「アメリカ ン大学核研究所」

12月13日 9:30−5:30 アメリカン大学 カイ・チャペル

9:30 歓迎−−核とともに生きる:狂気の58年間

9:45ー12:00 キノコ雲の下で

12:00−1:00 昼食

1:00ー3:15 核戦争の防止:歴史の教訓

3:30−5:30現在の世界的な核の脅威:テロ・拡散・ブッシュ政権の政策

5:30ー5:40 結語 ピーター・カズニック



核情報ホーム | 連絡先 | ©2005 Kakujoho