核情報

2004.11.28

米国新型核予算削除:詳報

11月20日(土曜日)に米国議会を通過した2005年度予算で新型核関連予算が削除された。この予算は、先月(10月)1日からのものだが、選挙の関係もあって、最終決定が遅れていた。エドワード・マーキー下院議員(民主党:マサチューセッツ州)は、21日に発表した声明の中で、これらの予算の削除は、「議会の核管理・軍縮提唱者にとって、核実験を制限するのに成功した1992年以来の最大の勝利だ」とし、「他国に核兵器を持たないように説得しようとするなら、ここ米国でまったく新しい世代の核兵器を作る準備をすることはできない。」と述べている。

米国の予算は、歳出権限法Authorization Billと歳出予算法Appropriation Billの二つにわけて審議される。前者で施策の実施権限と歳出限度を決め、後者で実際の予算額を付ける。上下両院での小委員会、委員会、本会議における様々な審議段階での決定が報道されるので、10月1日からの予算の最終決定が実はまだだったということを理解していた人は少ないかもしれない。核兵器の設計・開発に当たるエネルギー省の予算額の審議は、下院ではまずエネルギー・水開発予算小委員会で行われる。デイビッド・ホブソン同委員長(共和党:オハイオ州)は、新型核の開発に批判的で、昨年も同委員会は、新型核関連予算を削減・削除していた。今年は委員会が、新型核関連予算を完全に削除し、下院全体でもこの案がそのまま通過していた。上院では、核開発施設を抱えるニューメキシコ州選出のピート・ドメニチ議員が先頭に立って昨年同様政府案を支持。そのため、両院協議会での協議となった。ブッシュ共和党の勝利に終わった選挙後に行われた協議会でハリー・リード(民主党:ネバダ州)及びダイアン・ファインスタイン(民主党:カリフォルニア州)ら 上院議員の働きかけもあって、選挙で勝ったブッシュ政権の要求を拒否する下院案が通る異例の結果となった。

2005年度の新型核予算要求・最終結果はつぎの通り。

(1)先端概念イニシアチブ─削除

要求900万ドル:04年度は600万ドルが承認。 新しい概念を検討するもので、この中に低威力(5キロトン以下)のものも入り得る。 この項目を削除した上下両院協議会は、同額を既存の核弾頭の信頼性・寿命・承認などの改善のための計画「信頼性のある代替核弾頭計画」に提供。

(2)堅固な地中貫通型(RNEP)─削除

要求2755万7000ドル:

04年度は1500万ドルを要求したが、認められたのは約半額の743万5000ドル。05年度のものは、このカットされた部分を入れて、さらに少し上乗せしての要求額。これは数百キロトン・レベルの威力を持つもので、低威力(5キロトン以下)のものとは直接関係ない。)

(3)核実験準備態勢維持・改善─2250万ドル:

ただし24ヶ月の準備態勢とする。 要求3000万ドル:04年度は2474万4000ドル承認。 これには、核実験実施の大統領命令があってから2−3年以内に実験できる現態勢の維持のためのものと、この準備期間を18ヶ月に短縮するための準備態勢改善計画用のものとが含まれる。「維持」の部分と「改善」の部分が混在していて、分離不能となっている。04年度予算について議会調査サービスの報告書は「要求額2490万ドルのうち、現在の24−36ヶ月態勢を維持するのに少なくとも1500万ドルはかかるだろう。」としている。両院協議会は、承認した資金を準備態勢を18ヶ月とするためには使ってはならないと決定。

(4)「最新型ピット生産施設(MPF)」設計作業─700万ドル。

要求2980万ドル:04年度は2280万ドルの要求を1080万ドルに削減された。)

ピットは、プルトニウムからなる原爆装置(水爆の引き金となる)の芯の部分。MPFは、2018年に年間450−900個の製造能力を持つことを目指すもの。1989年にロッキーフラッツの施設の閉鎖でピット製造能力を失った米国は、MPF計画とは別に、現在ロスアラモス研究所のプルトニウム施設TA55で年間10−20個の製造能力を目指して作業を進めている。TA55では、04年度にW88型弾頭用ピットを認証可能なかたちで6個製造、05年度にはさらに6個製造する計画。これらのピットを使った様々な測定・実験により07年度までに実際の認証ができる態勢を確立することを目指している。TA55は、暫定的施設であり、MPFによって本格的な製造能力を得たいというのがエネルギー省の計画。(ピット生産施設は古くなったピットの再生産にも「必要」なので、新型核のためのものだけとは言えないが、少量の核兵器態勢を維持するのにMPFは必要ないというのが批判派。)  両院協議会の決定は、このMPF計画に700万ドルを与えたうえで、サイト選択のための環境影響評価の作業は進めてよいが、今年中にサイトを選択してはならないという制限を付けた。

これらの勝利をもたらした要素として「生きられる世界のための協議会(CLW)」のジョン・アイザックスは次のようなものを挙げている。


参考:



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