核情報

2006.11.15

IAEA事務局長イラン報告 2006年11月

米国のNGO「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」のサイトに載せられた「国際原子力機関(IAEA)」事務局長のイラン問題報告書(11月14日付)の粗訳を試みました。23−24日に開かれるIAEA理事会に先だって理事国に配布された文書をISISが入手したものです。

参考:


IAEA(国際原子力機関)

理事会

原文(pdf)

Gov/2006/64

2006年11月14日

配布制限

原語:英語

公用のみ

暫定アジェンダ Item3(d)

(Gov/2006/60)

イラン・イスラム共和国とのNPT保障措置協定の実施状態


事務局長報告

1.2006年8月31日、事務局長は、イラン・イスラム共和国におけるNPT保障措置協定の実施状態について報告した(Gov/2006/53)。本報告は、この時点以来の状況に関するものである。

A.濃縮関連活動の停止

2.2006年8月31日以来、パイロット燃料濃縮プラント(PFEP)における単一機テストスタンド、それに、10基、20基、そして最初の164基カスケードが運転された。ほとんど真空状態でのもので、断続的にUF6が供給された。二つ目の164基カスケードは、完成され、そして、2006年10月13日にUF6を使ったカスケード試験が始まった。2006年8月13日から11月2日まで、総量約34kgのUF6が遠心分離器に供給され、U235含有率5%以下のレベルまで濃縮されたとイランが報告した。

3.2006年9月16日から18日まで、当機関は、PFEPにおいて実在庫検認(PIV)を実施した。その評価は、サンプルの結果を受け取っていないため、なされていない。

4.PFEPにおける最初の164基カスケードの試運転においてウラン235含有率5%のレベルの濃縮を達成したとする2006年6月のイランのステートメントを確認するために当機関が採取した環境サンプルの分析結果は、まだ出ていない(Gov/2006/53, para.5)。イランは、当機関がその監査活動を完結させるのに必要な製品及びテール分析に関する運転記録への完全なアクセスを当機関に提供していない。

5.イランは、PFEPにおけ遠隔モニタリングの実施についての話し合いを拒否し続けている。この提案は、PFEPにおいては運転中の濃縮施設の検認に通常使われる手段(限定的な頻度の抜き打ち検査)が実施不可能であるという事実の埋め合わせのために当機関が行ったものである。(Gov/2006/53, para.6)

6.2006年11月5日、設計情報検認(DIV)が、ナタンズの燃料濃縮プラント(FEP)で実施された。ここでは建設が進行中である。

B.再処理活動の停止

7.当機関は、テヘラン研究炉(TRR)及びモリブデン・ヨウ素・キセノン・放射性アイソトープ製造施設におけるホットセルの使用、イラン核研究炉(IR−40)におけるホットセルの建設を監視している。査察、DIV、衛星写真などによるものである。これらの施設において、あるいはイランにおける他のいかなる申告済み施設においても、再処理活動が進行中であることを示す兆候はない。

C.重水研究炉

8.2006年8月31日以来、当機関は、衛星写真によって、IR−40炉の建設を監視している。この建設は、関連建造物の建設とともに、継続中である。

D.未解決の問題

9.2006年10月16日、当機関は、イランに対し、イランの核活動に関連した長期に渡って未解決の検認問題について、また、イランがこれらの問題に対処しておらず、同国の核活動の一部に関連した不確実性を除去するのに必要な透明性を提供してもいないという事実について、書簡を出した。この書簡において、当機関は、イランに対し、すべての長期に渡って未解決の検認問題の解決を可能にするのに必要なすべての情報とアクセスを提供するよう要請した。2006年11月1日の返答においてイランは、「曖昧さがあれば、それを除去し、保障措置協定に従ってアクセスと情報を提供する用意がある」と述べた。未解決の問題に関しては、イランは、2006年4月27日の書簡に言及した。この書簡においてイランは、「[安保理に送られている]核関連文書一式が完全に機関の枠組みに送り戻されるならば、向こう3週間の間に、タイムテーブルを提供し、残っている問題を解決する用意を宣言」していた。

D.1.濃縮プログラム

D.1.1汚染

10.Gov/2006/53, para.11で言及されている汚染問題(つまり、遠心分離器の部品が製造・使用・貯蔵されたとイランが報告した場所で発見された低濃縮ウラン粒子、それに、高濃縮ウラン(HEU)粒子のソース)の解決に関しては、進展はなかった。さらに、2006年1月に工科大学の機器から取られたサンプルで発見された天然ウラン及び高濃縮ウランの粒子について解明がまだ必要である。Gov/2006/53, para.24)

D.1.2 P−1及びP−2遠心分離器技術の取得

11.イランは、当機関に対し、イランのP−1及びP−2遠心分離器プログラムの関する新しい情報を何も提供していない(Gov/2006/53, paras12-13)。

D.2.ウラン金属

12.イランは、まだ、UF6をウラン金属に還元し、濃縮ウラン及び劣化ウランの金属を鋳造・工作して半球にする手順を説明した15ページの文書のコピーを当機関に提供していない(Gov/2005/87, para.6)。文書は、2006年8月に当機関が再封緘した。

D.3.プルトニウム実験

13.当機関は、イランに対し、そのプルトニウム分離実験についての説明を求め続けている(Gov/2006/53, paras15-17)。イランは、これらの実験に関する未解決の問題について十分な説明を提供しておらず、関連した情報は他にないと述べている。

14.事務局長の先の報告に反映されている通り(Gov/2006/53, para.17)、カライ廃棄物貯蔵施設(実験で使われた劣化ウラン・ターゲットを貯蔵するのに使われた容器がある)で採取された環境サンプルの分析結果はHEU粒子の存在を示している。粒子のソースに関する情報、そして、容器の過去の使用に関する情報を求める当機関の要請に対して、イランは、当機関に、2006年9月6日付の書簡において容器はTRRの使用済み燃料の一時的貯蔵に使われ、これが同国の見解では、HEU粒子の存在の説明になると述べている。テヘラン核研究センターにある他の容器からもサンプルが採取されている。同センターもTRRの使用済み燃料を貯蔵するのに使われた。これらのサンプルの結果はまだ出ていない。

15.2006年10月16日付けの当機関の書簡(パラグラフ9で言及されている)に同封されたかたちで、イランは、カライの容器から採取されたサンプルのさらなる分析結果の詳細な評価を提供され、HEUの存在についてのさらなる説明と、サンプルにおけるプルトニウムの新たな結果についての説明を求められた。2006年11月13日、イランは、この要請についての回答を提供した。当機関は現在これを評価中である。

E.他の実施問題

E.1.ウラン転換

16.2006年6月、イランは、ウラン転換施設(UCF)において、約160トンのウラン精鉱を使ったウラン転換キャンペーンを実施した。2006年11月7日現在、UF6の形態のウラン約55トンがこのキャンペーンで得られている。UCFにおいて製造されたすべてのUF6は、当機関の封じ込め・監視の下にある。

E.2.他の問題

17.先の報告書(Gov/2006/38, para.14; Gov/2006/27, paras19-20)で言及されている他の実施問題に関しては、報告すべき新たな進展はない。

F.透明性措置

18.イランは、物理研究センター(PHRC)に関連した機器及び物質に関する説明、あるいは、そのさらなる環境サンプリングを実施するためのアクセスを求める当機関の長期に渡って未解決の要請に未だに応じていない。イランは、PHRCのもう一人の元センター長をインタビューするアクセスを当機関に与えてもいない。

19.イランは、いわゆるグリーン・ソールト・プロジェクト、高性能爆薬の実験、ミサイル再突入体の設計などに関してなされたとされる研究に関する情報について話し合う用意をまったく見せていない。(Gov/2006/53, para.26)

G.要約

20.イランは、申告した核物質及び施設へのアクセスを当機関に提供してきており、核物質及び施設に関連して要求される核物質計量管理報告を提供している。しかし、イランは、PFEPにおける運転記録への完全なアクセスを当機関に提供していない。

21.当機関は、イランにおける申告済み核物質の非転用については検認することができるが、イランが、長期に渡る未解決の検認問題について、追加議定書の実施によるものも含め、対処し、必要な透明性を提供しない限り、当機関は、未申告の核物質及び活動の不在を検認しようとする努力においてさらなる進展を得ることはできない。この面における進展は、当機関がイランの核計画の平和的性格について確認することができるようになるための前提となる。

22.当機関は、イランの核活動に関連したすべての未解決の問題についての調査を実施し続ける。そして事務局長は、適宜、報告し続ける。


核情報ホーム | 連絡先 | ©2006 Kakujoho