イランが1月10日、国際原子力機関(IAEA)がそのウラン濃縮関連施設に取り付けた52の封印の撤去を開始して国際社会に不安を巻き起こしています。米国のNGO「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」が、そのウェブサイトで、ナタンツのウラン濃縮施設の衛星写真を掲載するとともに核兵器開発能力についての分析を行っています。ISISによると、最悪の場合、2009年にイランは核兵器を一つ持つことになる恐れがあるとのことです。
ウラン濃縮については、日本原燃の六ヶ所ウラン濃縮工場の説明が参考になります。このことは、核兵器の材料を作ることのできるウラン濃縮施設や再処理工場を持つ六ヶ所村がいかに世界の核拡散問題とつながっているかを思い起こさせるものでもあります。
以下は、衛星写真の説明と、ISISの分析の要約です。
衛星写真
ナタンツ・ウラン濃縮施設(写真、2006年1月2日撮影)
矢印で示されているのは:
パイロット燃料濃縮工場(PFEP) 左中央
燃料濃縮工場(FEP) 右上の黒い四角二つ(地下工場のおおよその位置)
地下施設への隠れた入り口 中央
新しい建設場所 *で示された建物
- 参考:イランの核関連施設地図
ISISの分析の要約
「イランの次のステップ:最終試験とウラン濃縮工場の建設」(2006年1月12日)(pdf)より
- パイロット燃料濃縮工場(PFEP)
- 収容能力
- (遠心分離器164台のカスケード)X6=遠心分離器約1000台
- 核兵器製造能力
- 核兵器用に意味のある量の高濃縮ウランの生産には使われそうにない。
(カスケード:一連の遠心分離器をつないだひとまとまりのセット。階段状に水の落ちる滝を意味する言葉からきている。)- 現状
- 2003年秋 164台の遠心分離器からなるカスケード一つが設置完了。一度も運転されていない。今回封印が撤去されたものの一つ
- このカスケードの運転開始に必要な措置。
- 故障した遠心分離器の修理・交換。
- 取り外したパイプの腐食問題の対処、繋ぎ直し。
- カスケード内の真空状態達成。
- 遠心分離器の回転開始。
- 真空状態での回転継続:数週間。
- 六フッ化ウランを入れての運転の準備。
- カスケード全体の準備に2−3ヶ月。部分的に使うなら短縮化可。
- 運転能力の実証:問題がなかったとして、6ヶ月−1年
- 同様のものを作り、さらに大きなカスケードへ
- 燃料濃縮工場(FEP)
- 施設の位置
- 地下
- 主要能力
- 遠心分離器5万台
- 現状
- 活動中断まで一台も設置していない。
- 設置方法
- 3000台を一単位(モジュール)
イランの説明 原子力発電用の低濃縮ウランの生産- 運転時の核兵器材料製造能力
- 高濃縮ウラン年間500kg=25−30発(15−20kg/個)
*5万台のうち1500台だけ、低濃縮ウランを高濃縮にするために使う場合- 核兵器製造までの期間
- 2004年の活動中断時点の状況
- 組み立て済み遠心分離器
- 700台
- 遠心分離器部品
- 1000台分以上
- 遠心分離器製造・組み立て能力
- 70−100台/月
- 2006年末までに保有できる合計
- 1300−1600台
*1月に作業を開始したとして- これを運転できる状態にするのに要する期間
- 1年
- 核兵器1個分の高濃縮ウランを生産するのにかかる期間
- 1年
- 高濃縮ウランを核兵器用部品に転換するのに要する期間
- 数ヶ月
*核兵器用の他の部品の開発はこれまでに可能- 最初の1個の核兵器を入手できる時期
2009年
- 弾道ミサイルに搭載できるものにはならないかもしれない。
これは最悪のシナリオであって、極めて不確かなものだとISISは言う。
これより短期間でも可能というIAEAのアナリストもいるが、米国の情報機関のアナリストを初め、2009年というのは「楽観的」にすぎるとするものがいるとISISは指摘している。