核情報

2015. 4.24〜

イラン核問題解決へ枠組み合意

 4月2日、国連安全保障理事会常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国(P5 +1)とイランは、2002年に発覚したイランの核兵器開発疑惑問題を解決するための枠組み合意に達しました。イランは低濃縮ウランをさらに濃縮することで、2─3カ月内に核兵器1発分の兵器級高濃縮ウラン(約25kg)を取得可能と米国は見ています。この一発分取得の期間(ブレイクアウト・タイム)を1年以上にするのが米国などの狙いです。この合意で戦争の勃発が回避できるし、少なくとも10年間はイランが核兵器を取得するのを防げるとの意見と、これではイランの核兵器開発を許してしまう、厳しい制裁措置を続行すべきだという意見があります。

参考


 最終合意の期限は6月末です。6カ国側を代表した欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表(外相)とイラン外相が発表した共同声明は簡単なものです。米国とイランがそれぞれの解釈を発表していますが、制裁措置の解除・停止の時期、軍事施設の査察などについて相違があります。6カ国とイラン、そしてそれぞれの国内での穏健派と強硬派、米国に影響力を行使したい強硬な姿勢のイスラエルなどの駆け引きが続きます。

 問題になっている主要な施設は以下の通りです。

2015年4月合意関連主要施設
問題場所施設名備考
ウラン濃縮関連ナタンツパイロット燃料濃縮プラント(PFEP)少量の3.5%濃縮ウランに加え2010年2月から20%弱濃縮ウラン202kg製造
燃料濃縮プラント
(FEP)
2007年2月から運転。
フォルドウフォルドウ濃縮燃料プラント(FFEP)2009年6月に発覚。少量の3.5%濃縮ウランに加え2013年2月から20%弱濃縮ウラン246kg製造
プルトニウム生産関連
(重水減速・冷却原子炉)
アラクイラン原子力研究炉(IR−40)
(40は、熱出力40MWt(メガワット)を意味する)
天然ウランを使い、プルトニウムの生産に適した炉。イランは医療用アイソトープ製造や研究・開発用と説明。 プルトニウム製造最適な形で運転すれば、年間9kg製造可能(設計にもよるが約2発分)とISISは分析。
20%弱濃縮ウラン使用炉
(高いレベルの「低濃縮」の正当化)
テヘランテヘラン研究炉(TRR)医療用アイソトープ製造及び研究用。米国が高濃縮ウランと共に1960年に提供。1993年以来19.75%濃縮ウランで運転。イランはこの炉のために20%弱濃縮ウランを製造と説明。

 イランは、平和利用目的だとして、高濃縮ウランとプルトニウムの取得に必要な能力の開発を進めてきました。進んでいるのはウラン濃縮の方で、ナタンツ(ナタンズとも表記)のパイロット規模と大型の二つの施設、それに、フォルドウの山中の地下深くに設けられた施設があります。イランは、原子力発電所で使うとする約3.5%の濃縮の他に、テヘラン研究炉用に必要だとして、20%弱の濃縮もしてきました。濃縮度20%以上だと核兵器が作れる「高濃縮ウラン」と見なされますが、問題はそこではなく、濃縮度90%以上の兵器級を取得するのに、天然ウランからではなく20%から出発すると必要な工程の9割がすでに終わっていることにあります(3.5%からだと7割弱が終わっている)。これまでの合意に従い、イランは、製造した20%弱の濃縮ウラン約448kgのうち110kgを他のウランと混ぜて5%以下にし、337kgをTRR用燃料の製造工程に送り込んでいます。米国NGO「科学・国際安全保障研究所(ISIS)は、後者の量を減らさせるべきだと主張しています。

 イランは、アラクに核兵器用のプルトニウム生産に適した重水冷却炉をほぼ完成させていますが、使用済み燃料からプルトニウムを分離するのに必要な再処理施設は持っていません。米プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授らは、アラク炉の燃料を天然ウランから低濃縮ウラン(5%)に変えてプルトニウム生産効率を下げ、民生用利用効率を上げることを軍縮問題専門誌『アームズ・コントロール・トゥデー』(2014年4月号)で提案していました。今回の合意は、これを一歩進めて、現在の原子炉容器(カランドリア)を除去し、6カ国が同意する設計のものに取り替えるとしています

 枠組み合意ではこの他、遠心分離器の数を3分の1に縮小すること、低濃縮ウランの保有量を現在の約10トンから300kgに減らすこと、再処理はしないことなどが定められています。これらと検証や制裁措置解除の仕組みなどを固めるのに残された時間は後2カ月です。

2015年4月 主要合意事項(米国側説明)
カテゴリ−場所対象合意事項
ウラン濃縮ナタンツ遠心分離器 3分の1に縮小(現在の約1万9000台から6104台に)。10年間は、この内の5060台のみを使用。全て第一世代のIR-1で、新型は使わない。
濃縮度少なくとも15年は3.67%を超えない
ストック現在の低濃縮ウラン保有量約10トンを3.67%低濃縮ウラン換算で300kgに減らす(六フッ化ウランの重量)。同レベルを15年間維持。
ブレークアウト・タイム米国の説明:上の合意により現在の2〜3カ月から1年に。少なくとも10年維持。
フォルドウウラン濃縮活動(停止)少なくとも15年間はウラン濃縮をしない。遠心分離器及び関連インフラの3分の2近くを除去。施設には核分裂性物質を置かない。研究センターとして使用。
プルトニウムアラク炉心(変更)・再処理活動(なし)現在の原子炉容器を除去し、新たな設計に。兵器級プルトニウムを生産しない。使用済み燃料は国外に輸送。15年間は重水炉を建設しない。イランは無期限に再処理もその研究開発もしない。

  


核情報ホーム | 連絡先 | ©2015 Kakujoho