核情報

2008.6.18

米政界重鎮4人「核のない世界」実現への呼びかけとノルウェー政府の対応

国際会議開催と核不拡散条約再検討会議準備委員会での発言

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)紙の投稿記事で「核のない世界」の実現を呼び掛けた米国政界重鎮らの動きに鋭く反応した国の一つにノルウェーがあります。同国は、2月に国際会議「核兵器のない世界の達成」を開催し、4-5月の「核不拡散条約(NPT)」再検討会議準備委員会では、2月の会議での外務大臣によるまとめにある5つの原則と10の政策提言をそのまま発表しました。

ヘンリー・キッシンジャー元国務長官(ニクソン政権)、ジョージ・シュルツ元国務長官(レーガン政権)、ウイリアム・ペリー元国防長官(クリントン政権)、サム・ナン元上院軍事委員会委員長(民主党)の4人による「核のない世界」実現を訴える昨年1月と今年1月の文章が米国の大統領候補者などに影響を与えていることは、共和党マケイン候補の核兵器消滅の夢と「反黙示録の4騎士」で紹介したとおりです。

ノルウェー外務省は、この4人の提言に応じる形で、2月26-27日にオスロで国際会議「核兵器のない世界の達成」を開催しました。会議には、4人のうち、シュルツ・ナン両氏が出席しました。ヨーナス・ガール・ストーレ外相は、開会の挨拶で、シュルツ元長官とナン元上院議員が会議を「共催」することに同意してくれことに謝意を述べています。会議には、レーガンとゴルバチョフのレイキャビク・サミットで議論された「核のない世界」の議論を復活させることをスタンフォード大学フーバー研究所でシュルツと最初に話し合った科学者シドニー・ドレルも出席しました。そのほか、29ヶ国から100人以上の専門家が集まりました(出席者リスト pdf)。

日本からは、外務省の中根猛軍縮不拡散・科学部長と軍備管理軍縮課からもう一人が参加しました。

ストーレ外相は、開会挨拶 (pdf)で1980年代を振り返って次のように述べ、レイキャビクの重要性を強調しました。

悲観主義者だったのを覚えています。しかし、そこにレイキャビクの救世的希望が訪れました。冷戦の最中に、「闘将」が公に、そして、真摯に、と信じていますが、核兵器のない世界について語りました。「中距離核戦力(INF)」禁止条約とそれに続く協定により楽観主義の火がつきました。

会議の背景には、2010年に開催されるNPT再検討会議を、2005年のように文書も採択できずに終わってしまうような失敗に終わらせてはならないとの思いがありました。会議の目的は、

  1. 短期(2-5年)で現実的に実施できる核軍縮、核不拡散、核リスク削減の提案をする
  2. 長期的な目標とその達成に向けての進み方について議論する

ことでした。

ストーレ外相は、会議を終えるに当たり、次のように述べた後、2日間の会議の流れを要約し、最後に「大臣の感想」と題された部分で、5つの原則と10の提言を提示しました。

私は、私の共催者、「核脅威イニシアチブ(NTI)」、スタンフォード大学フーバー研究所(*)、「ノルウェー放射線防護庁(NRPA)」に深い感謝の意を表します。ナン元上院議員、シュルツ元国務長官、エルバラダイ事務総長の個人的な関わりもこの会議の成功に、決して小さくはない形で、貢献しました。目を覚ますようにという彼らの共同の呼び掛けは、時宜にかなった警告です。ノルウェーは、独自に、また、「7ヶ国イニシアチブ」(**) のパートナーとともに、これを心にとどめておきます。

ジュネーブで開かれたNPT再検討会議準備委員会で4月29日にノルウェー代表が行った演説 (pdf)の3分の1以上が、ストーレ外相のまとめた5つの原則と10の提言をそのまま紹介することに充てられました。

以下、国際会議「核兵器のない世界の達成」のサイトにある会議の「背景説明」全文『大臣の要約と暫定的提言──核兵器のない世界を達成するための世界的努力』(pdf)の「大臣の感想」の粗訳を載せました。

M.T.

7カ国外相が核不拡散政治宣言:事務総長、歓迎 (国連広報センター 2005年7月26日)

オーストラリア、チリ、インドネシア、ノルウェー、ルーマニア、南アフリカ、英国の7カ国外相が本日、核不拡散に関する政治宣言を発表し、9月の世界サミットへのインプットのため、総会議長に提出した。アナン事務総長は声明を発し、この7カ国イニシアチブが核不拡散/軍縮諸条約の遵守強化に関して、総会のコンセンサス合意につながるよう期待を表明した。

参考

2000年以降のNPTの会議関連文書を見るには「婦人国際平和自由連盟(WILPF)」のプロジェクト「リーチング・クリティカル・ウイル」)のサイト(英文)が便利です。




  1. 背景
  2. 『大臣の要約と暫定的提言──核兵器のない世界を達成するための世界的努力』

背景

「背景説明」全文

NPT体制の柱は、バーゲン(取引)――核軍縮と引き換えの核不拡散――である。冷戦終焉後、このバーゲンを実現するために相当の努力がなされた。とりわけ、1995年と2000年の再検討会議において。しかし、最近は、進展が止まってしまっている。

核軍縮の側では、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」が発効していないし、核分裂性物質カットオフ(生産禁止)条約の交渉は始まっていない。もっと一般的には、「13のステップ」のアプローチが、多くの非核兵器国のアジェンダの中核であり続けているにも関わらず、うまく行っていない。いくつかの国がその国家安全保障ドクトリンにおける核兵器の役割を高めているとの批判もある。

核不拡散の側では、すべての国に対して追加議定書を採用するように奨励する努力が限定的な成功しか収めていない。さらに、原子力「ルネッサンス」が広く予想されているにも関わらず、濃縮技術あるいは再処理技術をいかにしてもっと厳重に管理すべきか、あるいは、そうすべきかどうかについて合意が得られていない。

2005年の再検討会議の失敗が2010年に繰り返されるのを避けるためには、核軍縮の努力と核不拡散の努力の双方を活き返らせなければならない。このためには、核兵器国と非核兵器国の間で、NPTにおける約束のすべての重要性について新たなコンセンサスが必要である。

このような背景の上に立って、ノルウェー政府は、現在の袋小路からいかにして抜け出すかを議論するために国際会議を招集しているのである。

この会議の具体的な目的は二つある。

  • 短期(2-5年)で現実的に実施できる核軍縮、核不拡散、核リスク削減の提案を特定・案出する。
  • 長期的な目標とその達成に向けての進み方について議論する。

この会議は、これらの分野におけるノルウェーの政策――現在のNPT再検討のサイクルのためのもの、そしてその後のためのもの――を形作るのに役立つだろう。

ノルウェー政府は、NPTのバーゲンを実現するための実行可能で革新的な戦略について聞きたいと考えている。この会議が、核軍縮について「長い目」で見ることによってこのようなアイデアを生み出し、核廃絶の提起する課題と、それらを克服し始めるために今何ができるかとについて検討するよう期待する。

『大臣の要約と暫定的提言──核兵器のない世界を達成するための世界的努力』

(原文 pdf)

「大臣の感想」

世界から核兵器をなくす努力を成功させるには、核軍縮は、共同の事業にしなければなりません。実際、「核不拡散条約(NPT)」6条は、核軍縮を実現する義務をすべての加盟国に課しています。今日、核不拡散及び軍縮に関する国際的議論に特徴的に見られるのは、「あなたが先に」という態度です。これは近視眼的です。核不拡散と核軍縮を同時に進めることでしか、核兵器のない世界という私たちのビジョンは、実現できません。このビジョンを現実のものにするには、すべての国が――核兵器国と非核兵器国がともに――必要とされる検証手段と集団安全保障の仕組みを発展させるために協力しなければなりません。

私は、二つのウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事で提案されているアイデアを完全に支持するとともに、私たちの世界的努力の進展のための5つの原則を提示したいと思います。もちろん他にないというわけではありませんが、私は、これらは決定的に重要だと思います。

第一に、核兵器のない世界のビジョンの達成には、トップ・レベルのリーダーシップと、一般大衆を含む主要な「利害関係者(ステークホールダー)」への真剣な働きかけが必要です。第二に、核軍縮を本気で考えるなら、私たちのビジョンを維持し、これに勢いを与えるために、今、具体的な措置を講じ始めることが必要です。第三の原則は、根本的なものです。核兵器のない世界を達成するというのは、すべての国――核兵器国と非核兵器国の両者――の共同の事業でなければなりません。第四に、私たちが直面している広範な課題に対処するにあたり、私たちは、差別をしないという原則――効果的な多国間主義の重要な原則――を貫かなければなりません。最後に、核兵器国と非核兵器国の両者の透明性が、私たちの世界的努力の中核になければなりません。

これらの原則から、いくつかの結論が導かれます。これらは、二日間の議論・討論から得た私の考えです。これから何日か、あるいは何週間かの間に私たちの考えを精緻なものにしていく中で、皆さんのお考え、インプットを歓迎しますが、これらはコンセンサスによる提言ではないことを強調しておきたいと思います。

すべての国の国家レベルの指導者たちは、核兵器のない世界のビジョンを実現することに個人的に関わり、これを国の政策とすべきである。指導者らは、早い段階で、国内の主要な「利害関係者(ステークホールダー)」――とりわけ国民――を巻き込むことを追求すべきである。さらに、核軍縮は学際的事業となるから、各国の国家レベルの指導者らは、科学、外交、政治、法律、軍など関連するすべての分野の専門家を巻き込むことを追求すべきである。

米国とロシアは、核兵器の数が千の単位ではなく百の単位で数えられるようにするべく、その核兵器の量を相当程度減らすよう期待される。これは、検証可能な、法的拘束力を持つ条約によって実施すべきである。また、核の安全保障に対する協力的なアプローチを築くための戦略的対話において、中国を、そして、いずれは、核兵器を持つ他の諸国も、巻き込むことが重要である。

もっと大幅な削減への道を整備するために、非核兵器国は、核兵器国と協力して、核軍縮を検証するのに必要な技術を開発すべきである。核兵器国は、この技術を実証するために、核兵器の数の削減によってもたらされた機会を活用すべきである。

核兵器を持つすべての国は、核兵器の廃絶に向けた貢献として、これらの兵器への依存を覆すためにあらゆる努力をするよう期待される。これらの国々は、また、その核兵器の運用ステータスを変え、その使用が考えられるような場合に決定にかけられる時間を長くすること、そして、戦略的安定性を促進するための他の措置を講じることが期待される。

「包括的核実験禁止条約(CTBT)」は、新たな核軍拡競争を防ぐために決定的に重要である。条約が発効するまで、現存の核実験モラトリアムを強化すべきである。核実験を実施したことのある各国は、核実験を再開する最初の国にはならないと誓約すべきである。さらに、CTBTの国際監視システムの資金供与は続けられなければならない。

「核分裂性物質禁止条約(FMCT)」は、核軍縮を推進し、核拡散を防止する上で、きわめて重要である。FMCTの交渉を始めるのに加え、国際社会は、すべての核物質――FMCTの対象とはならないかもしれない物質も含め――の保安と透明性を高めるための自主的な「核分裂性物質管理構想(FMCI)」の創設を検討すべきである。

核兵器の廃絶には、堅固で信頼性のある核不拡散体制が必要である。包括的保障措置協定と追加議定書を採用していいない国はすべてそうすべきである。さらに、各国は、その各物質の安全・保安をためるためにすべての関連した多国間協定に署名し、これらを批准、実施すべきである。

恐ろしい核のテロリズムの可能性の回避に役立てるために、核兵器を持っている国は、すべて、その核兵器が権限を持っていない者の手に渡らないよう保証するために必要なすべての措置を講じるべきである。

我々は、IAEAと密接な協力の下に、非差別的核燃料供給システムを作ることを目指すべきである。この点で、製造側と消費側の真剣かつ継続的な対話が必要である。消費側が、その必要を説明する機会を持ち、供給側が取り決め・インセンティブをそれに合わせて調整する機会を持つようにするためである。

我々は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」のような支持基盤の広いハイレベルの「核軍縮に関する政府間パネル(IPND)」の招集について検討すべきである。核兵器廃絶の中核的要件について各国政府に助言するためのものである。


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