核情報

1999.12.19

先制不使用政策と日本

先制不使用政策と日本 ─ 1999年12月明治学院大学国際シンポジウム・レジュメ




1.唯一の被爆国日本


1.1.印パの核実験の後の自民党首脳陣の発言

1998年5月31日、野中広務・自民党幹事長代理(当時)の広島市内の講演での発言

「被爆国として、核保有国に、『あなた方が核をなくした上で他国が核武装しないようにいいなさい』という勇気がなぜないのか」

6月2日の自民党総務会で、梶山静六前官房長官:

「保有国に核廃絶を説得できるのは日本だけだ」。(1998年6月4日付読売新聞)


1.2.国連核兵器使用禁止決議に賛成した日本

1961年11月24日 禁止決議

「国連総会は、・・・核・熱核兵器を使用すれば、前述の国際宣言や協定で人道の法に反し国際法上の犯罪であると宣言された兵器の使用よりもはるかに大規模な無差別の被害と破壊を人類とその文明にもたらすであろうことを考慮し、・・

1.以下のように宣言する。

・・(d)核兵器・熱核兵器を使用するいかなる国も、国連憲章に違反し、人道の法に反して行動し、人類と文明に対する犯罪を犯しているものとみなされる。」



2.核抑止を信奉する日本


2.1.外務省によるNAC決議への対応

外務省の今年の「新アジェンダ連合(New Agenda Coalition)」の国連決議案への対応についての説明(口頭の説明をまとめたので、直接の引用ではない)


2.2.NAC宣言に日本が参加しなかった理由

1998年6月の新アジェンダ連合(New Agenda Coalition)の宣言に日本が加わらなかったことについての外務省の説明(福島瑞穂議員の資料請求に対する外務省の1999年2月26日付の回答):


2.3.日米共同新聞発表

三木・フォード会談 1975年8月5〜6日。(於:ワシントン)

1975年8月7日新聞発表 (cf; 1976年5月24日、NPT国会承認)

段落(4)総理大臣と大統領は、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約は、極東の平和と安全の維持に大きく寄与して来ているとともに、アジアにおける国際政治の基本的構造の不可欠の要素であり、同条約を引き続き維持することは、両国の長期的利益に資するものであるとの確信を表明した。両者は、さらに米国の核抑止力は、日本の安全に対し重要な寄与を行うものであることを認識した。これに関連して、大統領は、総理大臣に対し核兵力であれ通常兵力であれ、日本への武力攻撃があった場合、米国は日本を防衛するという相互協力及び安全保障条約に基づく誓約を守る旨確言した。・・・・


2.4.佐藤・ジョンソン共同声明

*1965年1月13日(米時間)発表

段落(8)首相と大統領は、日本の安全の確保について、いささかの不安もなからしめることが、アジアの安全と平和の確保に不可欠であるとの確信を新たにした。このような見地から、首相は日米相互協力及び安全保障条約体制を今後とも堅持することが日本の基本的政策であるむねを述べ、これに対し、大統領は、米国が外部からのいかなる武力攻撃に対しても、日本を防衛するという同条約に基づく義務を順守する決意であることを再確認した。


2.5.1982年6月25日予算委員会

横路孝弘議員の質問に対する松田・外務審議官(当時)の答弁

ご指摘のとおり、昭和50年8月6日の三木総理大臣とフォード大統領の首脳会議におきます共同声明において第4項で、わが国への武力攻撃があった場合、それが核によるものであれ、米国としては日本を防衛する。そういうことを大統領が確言しておりますことの中にはあらゆる意味での措置が含まれておるという意味において、核の抑止力または核の報復力がわが国に対する核攻撃に局限されるものではないという趣旨と私どもは理解しております。


2.6.1982年8月4日参議院安全保障特別委員会会議

上田耕一郎議員の質問に対する宮沢喜一官房長官(当時)の答弁

(75年4月に宮沢・キッシンジャー会談)

「わが国に対して加えられることがあるべき攻撃に対して、かりに通常兵器だけでそれを抑止するような十分な力にならないという状況であれば核兵器も使用されることあるべし、と、絶対に核兵器が使用されることがないというのではこれは抑止力になりませんから、通常兵器と核兵器と総合した立場で抑止力というものを考える、それは私はごくごく当然の立場ではないかというふうに思っておるわけであります。」


2.7.1985年3月12日参議院予算委員会

上田耕一郎議員の質問に対する栗山尚一外務事務次官(当時)の答弁

「もちろん核抑止力に依存するということでございますから、究極的にアメリカによる対日防衛義務履行のための核の使用というものが排除されてはおらないわけでございますけれども、先ほど委員ご指摘のようなアメリカの核先制使用をこの文書に認めたということではございません。」


2.8.ジェイムズ・レナード 元ジュネーブ軍縮会議米国代表

核の傘B(核兵器以外の攻撃に対する核による抑止)は、「極東では、第七艦隊や韓国における核の存在によって暗に示されていたが、公式で明示的なものではなかった。ただし、米国の高官がときどき誤って、あるいは、意図的に口を滑らせるということがあった。」
It was implicit in the presence of nuclear weapons in the Seventh Fleet and in South Korea, thought it was not made formal and explicit in the Far East, except for an occasional accidental or purposeful slip of the tongue by some high US official.

(Leonard, J., "Nuclear Umbrellas" in Andrew Mack ed.,Nuclear Policies in Northeast Asia) 



3.消極的安全保障Negative Security Assuaranceについての声明


3.1.米国

1995年4月5日

「大統領はつぎのように宣言する。

米国は、以下の場合を除き、核兵器の不拡散に関する条約の締約国である非核兵器国に対して、核兵器を使用しないことを再確認する。すなわち、米国、その準州、その軍隊、もしくは、その他の兵員、その同盟国、又は、米国が安全保障上の約束を行っている国に対する侵略その他の攻撃が、核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き、それらの非核兵器国に対して核兵器を使用しないことを再確認する。」

→1978年6月12日 バンス国務長官

「国連の軍縮特別総会における議論の現状を検討した結果・・・・大統領は、安全の保障の問題について米国の立場を説明することにした。・・・大統領は宣言する」


3.2.中国

1995年4月5日

「中国は、いかなる時にも、またいかなる状況においても、核兵器を使用する最初の国にならないことを約束する。」


3.3.非核兵器国の安全保障に関する決議

1995年4月11日国連安全保障理事会決議984(全会一致)

安全保障理事会は、・・・・・核兵器の不拡散に関する条約の締約国である非核兵器国に対して、核兵器を使用しないとの安全の保障を与える各核兵器国による声明を、謝意をもって留意する。


3.4.ロバート・ベル(米国国家安全保障会議上級スタッフ)上記を確認

「われわれに、あるいはわれわれの同盟国に、又は我が軍に攻撃を掛けてきた国が、核能力を持つか、NPTあるいはそれに相当する体制のメンバーでありながらそれを遵守していないnot in good standing国か、核能力を持つ国と同盟を結んで攻撃してくるのでない限り、紛争において最初に核を使わないというのが、PDDでも再度述べられている通り、米国の政策である。」(1998年1−2月号:Arms Control Today)






4.米国の曖昧政策

1998年2月4日モスクワの米大使館のプレス・リリース

イラクの化学兵器・生物兵器の攻撃に対して米国が核兵器を使うものではないかとの報道に関して。

「米国はイラクに対して核兵器を使う計画も意図もない。・・・

1996年にペリー長官が述べたとおり、核兵器を使わなくても壊滅的な対応をすることができる。しかし、われわれは、われわれが使うことのできるいかなる能力についても事前に排除することはしない。これは、化学兵器または生物兵器によってわが同盟国あるいは我が軍が攻撃された場合に関連したものであることを強調する。この立場は、1978年の米国の消極的安全保障と矛盾しない。」



5.朝鮮半島の非核化


5.1.朝鮮半島の非核化に関する南北朝鮮の共同宣言

(署名1992年10月20日、効力発生1992年2月19日。)

南と北は、・・・つぎのように宣言する。



5.2.米朝枠組み合意 1994年10月21日

Agreed Framework

・・米国と北朝鮮は、核問題の解決のために以下の行動をとることを決定した。



5.3.国務省の発表:

NPT体制の中でこれを遵守するメンバーとして留まる限り、北朝鮮には核兵器を使わないことを約束するものである。
We will provide a "negative security assurance". It would pledge us not to use nuclear weapons against North Korea as long asit remains a member in good standing of the NPT regime. (we have porovided similar assurances to other signatories of the NPT).



6.先制不使用宣言を求める米国内の主張

米国科学アカデミー国際安全保障・軍備管理委員会」

(National Academy of Sciences, Committee on International Security and Arms Control):

先制不使用宣言は「ヨーロッパやアジアの条約で結ばれた同盟国の防衛に駆けつけるという点での米国の意志が以前より弱くなったことを決して示すものではない。・・・NATOや韓国、日本との政治的な基礎固めが行われさえすれば、先制不使用政策の大きな利点は、その小さなリスクに勝る。・・・北朝鮮の通常兵器の脅威はきわめて現実的なものだが、米国は、朝鮮半島における抑止・戦争遂行目的を、核兵器に頼ることなく達成できる。日本に対する米国の安全の保障は、核不拡散の面で特に重要である。核兵器に対する日本の嫌悪の情は深いが、日本は明らかに核兵器を取得する技術的能力を有している。日本が核兵器を持てば、アジア太平洋地域をきわめて不安定にし、核不拡散体制にとって大きな打撃となる。しかしここでも、この地域における米日、米韓の通常戦力の強さからして、また、米国の核の脅威を北朝鮮が核兵器取得の口実にしていることからして、核の先制使用の威嚇は、この地域のおける米国及び同盟国の安全保障にとって不必要であり、また、逆効果をもたらすものである。」

(報告書『米国の核兵器政策の将来』The Future of US Nuclear Weapons Policy)




7.化学兵器にこだわることの問題


7.1.ウォルフガング・パノフスキーWolfgang Panofsky

スタンフォード線形加速器センター名誉所長(director emeritus of the Stanford Linear Accelerator Center ) :

「NATOの拡大と政治的コントロールを巡るドゥマ(ロシア下院)のエリツィン大統領に対する敵対的な態度のためにSTART2の批准が棚上げにされている状態で、米国が一方的な軍事的措置をとっていれば、ドゥマによるSTART2の批准問題に決定的悪影響を与えていた可能性がある。それにも関わらず、米国はイラクの生物兵器と化学兵器の野望を抑制することに対し、ロシアとの核軍縮の最良の前進に対するよりも、優先順位を与えたのである。こうして、米国は、更なる核軍縮だけでなく、核拡散防止という目的そのものも危険にさらすことになった。」
With Russian ratification of START2 hanging in abeyance because of NATO enlargement and the Duma's hostility to President Yelitsin over political control, unilateral US military action against Iraq could have easily tipped the balanace against the Duma's ratification of Start 2.
Nevertheless, the United States has decided to give priority to containing Iraq's BW and CW ambitions over optimal progress in nuclear arms reduction with Russia. Thus, the United States has put at risk not only further nuclear reductions, but its avowed nuclear non-proliferation objectives. (Arms Control Today  April 1998)

→米英によるイラクに対する空爆1998年12月16−19日

イラクの大量破壊兵器WMDとそのインフラを「低下・減少させるdegrade and diminish」ため。ドゥマでは、12月18日又は25日にSTART2の批准の投票が行われていると見られていたが、中止となった。

1999年3月24日のユーゴスラビア・コソボの空爆開始もまた、ドゥマでの審議が予定されていた直前だった。


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