2011年3月11日の東日本大震災と津波で起きた事故のため、福島第一原発4号機のプールは、もう少しのところでプール火災が起きて、風向きによっては、約3000万人の避難が必要な事態に至るところでした。ここに掲載するパワポ資料は、次のような事実を改めて想起するためのものです。
- ★4号機のプールには、炉心での工事のために地震の直前に炉心から取り出したばかりの熱い燃料が保管されていた
- ★プール火災を免れたのは、原子炉の上に位置する原子炉ウェルの水がプールに流れ込んだためだった
- ★ウェルは、本来なら原子炉内の工事のために空になっているはずだった
- ★たまたま、工事の遅れのためにウエルが水で満たされていたという幸運に恵まれたため、プール火災・大量の放射性物質の拡散が避けられたのだった。
そして、大規模なプール火災を防止するために、プールで5年以上保管した使用済み燃料を、自然対流利用の空冷式乾式貯蔵に移すことを提唱しています。
この資料は、2022年10月26日開催の「原発・核燃サイクルの中止を求めて 省庁・全国市民・議員の院内集会」(主催 脱原発政策実現全国ネットワーク)での発表で使ったものを若干修正し、補足スライドを追加したものです。
20221026 UPLAN 田窪雅文「使用済み核燃料プール火災の恐怖~教訓 5年以上プール冷却の使用済み燃料は自然対流空気冷却の乾式貯蔵へ」
『プルトニウムー原子力の夢の燃料が悪夢に』(フランク・フォンヒッペル 田窪雅文 カン・ジョンミン)の第5章と6章で検討している問題を要約しながら、関連情報の説明を加えたものとなっています。本書とともにご活用いただければ幸いです。
参考
核情報から
- 福島燃料プール危機の教訓──全国の原発でプールから乾式に 2012.12. 16
- 同時多発テロ後の使用済み燃料関連論争
火災リスクを減らすため取り出し後5年の使用済み燃料を乾式に 2013. 2. 22? - 静岡県知事、プルサーマル「白紙」──六ヶ所の燃料返還なら、引き取って乾式貯蔵が立地県の「義務」 2014. 4. 7
静岡県の川勝平太知事は、共同通信に対し、浜岡原発のプルサーマル計画は「白紙」と述べ、日本が抱える分離済みプルトニウムについて、「一番大きな問題だ。44トン、原爆5千発分。どう処理するか、今まで大きな形で表立って議論はされてこなかった」と指摘し、処分のための技術開発の重要性を力説すると共に、プールに置かれた使用済み燃料は安全性の観点から空冷式の乾式キャスク貯蔵に移すよう中部電力に引き続き促していくと述べました。さらに、六ヶ所再処理工場の受け入れプールに保管中の使用済み燃料が全国の原発に返還される事態になれば引き取って乾式貯蔵するのが「立地県としての)義務だ」と強調しています。
- 米専門家、プルトニウム増大をもたらす再処理政策中止をと訴え
使用済み燃料は再処理ではなく、敷地内乾式貯蔵を 核情報 2018. 4.27プルトニウム問題の専門家プリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授が4月20日、東京での講演で、日本は経済性の全くない再処理を止めるようにと訴えました。そして、使用済み燃料は、再処理によって核兵器の材料になりうるプルトニウムを取り出すのではなく、そのまま、プール貯蔵より安全な空気冷却の乾式貯蔵方式で最終処分場ができるまで保管するベきだと論じました。この時も紹介されましたが、日本でよくある議論は、敷地内・外の乾式貯蔵を許すと原発の延命に繋がるというものです。乾式貯蔵と再処理の両方を阻止すれば原発のプールは満杯になって原発が止まるという論理です。この論理の問題点は?
- 過密貯蔵の進む日本の原発と乾式貯蔵──危険な稠密貯蔵の実態分析 2021. 9.29
日本の原発の使用済み燃料プールは、元々、1~2炉心分程度しか収納できない設計になっていました(1炉心分というのは、原子炉の炉心部に収容できる核燃料全体に相当する量のことです)。使用済み燃料は数年プールで冷やした後、再処理工場に送られることが想定されていたからです。しかし、再処理計画が想定通り進んでいないため、使用済み燃料は、元々の想定の何倍もの密度で貯蔵されています。これを可能にしたのは、収納方式の変更です。燃料集合体同士の間隔を狭めて詰め込んでいるのです。この措置は、ラック(収納棚)の形状・方式を変えるという意味でリラッキング(詰めなおし)と呼ばれます。この稠密貯蔵状態では、プールの水が何らかの理由で失われていくと、燃料棒の温度が上がり、被覆管(ジルコニウム合金)の発火、そして、最終的には大量の放射能汚染を伴う大規模なプール火災に至る可能性があります。福島第一原子力発電所4号機で恐れられていた事態です。
- 日本のお手本、フランスの再処理体制が崩壊の危機 2022. 9. 4
日本の再処理政策のお手本の国フランスで、再処理政策中止の可能性を規制当局が口にする事態となっています。ラアーグ再処理施設の使用済み燃料貯蔵プールが満杯になる時期が2030年のはずだったのが、2028年以前、場合によっては2024年になる可能性が出てきているといいます。一方、満杯事態に備えて同施設内にフランス電力(EDF)が建設を計画している大規模な集中型貯蔵プールの完成予定時期が2030年のはずだったのが2034年以降に延期されています。二つの時期にギャップが生じているのです…
この状況を受けて、再処理施設を運転するオラノ社は、ラアーグ施設の既存のプールでの稠密貯蔵(設計より多くの使用済み燃料をプールに詰め込む方式)の導入と900トンの容量の乾式貯蔵施設の建設を提案している(この乾式貯蔵施設は使用済みMOX燃料など再処理の計画のないものを貯蔵するためのもの)…
使用済みMOX燃料は、再処理の予定がなく、ラアーグの受け入れ・貯蔵プールに[輸送され]貯蔵されており、これがプールの満杯時期を早める結果をもたらす。グリーンピース・フランスのヤニック・ルスレがASNから得た情報をまとめた下の表にあるように、使用済みMOX燃料の貯蔵量は2022年5月末現在、1766トンに達している(六ヶ所再処理工場の受け入れプールの総容量約3000トンの半分を超える量)…
福島第一原子力発電所の事故がもたらした使用済み燃料貯蔵プールの危機状況は、全国の原発の使用済み燃料をできるだけ早くプール貯蔵から自然対流空冷方式の乾式貯蔵に移すべきだということを示しています…
福島原発4号機は、3.11の地震・津波発生当時、定期検査のため運転停止となっており、炉心は空の状態で、炉の損傷による事故の心配はありませんでした。しかし、そのプールには、事故の直前に炉心から取り出したばかりの発熱量・放射能の大きな全炉心分の燃料集合体548体を含め、1331体の使用済み燃料集合体がぎゅうぎゅう詰めの状態で入っていました(この他に新燃料が204体)。このため、冷却水が失われた際に、空気の流れによる冷却が効きにくく、核分裂生成物の崩壊熱によるジルカロイ製の燃料棒被覆管の発火の可能性がそれだけ高くなります。また、発火事故で放出される放射能の量も大きくなります。それで4号機のプールの安全性が事故直後からとりわけ心配されていました。余震を心配する反原発グループが地震や水素爆発で弱体化した4号機のプールから早急に使用済み燃料を運び出せと要求しているのもこのためです…
福島第一原子力発電所4号炉の事故の教訓の一つは、原子力発電所の使用済み燃料プールあるいはその冷却システムが地震や津波で破損すると、原子炉が稼働していなくても大事故になり得るというもです。米国では、2001年の同時多発テロの後、テロ攻撃の結果、プールの水がなくなるとどうなるのかとの懸念が生じました。そして、このような場合にプールで火災が起き得ることを示した報告書が2003年に発表され、論争を巻き起こしました…
「2003年の業界・政府から独立の専門家による報告書(以下、独立報告)は主として以前に米国原子力規制委員会のために実施された技術的研究結果をまとめたものだったが、NRCと原子力産業は、報告書の結論に反論した。その結果、議会が米国科学アカデミーに対し、論争について調査するよう依頼した。
2006年、科学アカデミーの調査委員会は、米国のプールはテロ攻撃及び壊滅的火災に対して脆弱であると報告した…」
週刊東洋経済
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