核情報

2011.11.29

提言型政策仕分け、もんじゅに批判集中──出力運転用予算計上見送り提言
廃炉?再処理政策は?

原子力関連事業に関して11月20日に行われた行政刷新会議の「提言型政策仕分け」において、高速増殖原型炉「もんじゅ」の予算が厳しく批判されました。財務省主計官は「一度頭を冷やして予算の抑制を行うべきだ」と断じました。

消費した分よりも多くのプルトニウムを生み出すという「夢の」高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」は、1995年12月のナトリウム漏れ・火災事故以来15年近くも運転停止状態が続き、2010年5月にやっと再開となったものの、同年8月に起きた燃料交換用炉内中継装置の原子炉内落下事故で、また運転停止となっています。来年夏に予定されている原子力政策決定でこの「もんじゅ」の運転再開が決まったらそのために使うという「調整費」22億円が計上されていたことが特に問題視され、この予算の計上見送りと、高速増殖炉計画全体の見直しが提言されました。

しかし、もんじゅの廃炉、高速増殖炉計画の中止などが具体的に提言されたということではありません。さらに、高速増殖炉の初期装荷燃料とするプルトニウム生産が目的だったはずの使用済み燃料再処理計画についての議論はなされていません。

以下、仕分けの高速増殖炉に関する部分について概観した後、関連リンク、「もんじゅ」関連評価・財務省による批判の抜粋、仕分けの資料から高速増殖炉関連予算をまとめた表などを載せておきます。

参考







概観

仕分けの政策決定過程との関係?

仕分けの「評価」は、法的拘束力を持たない提言です。

国家戦略会議の「エネルギー・環境会議」によるエネルギー政策の見直しが来年夏頃の「革新的エネルギー・環境戦略」決定に向けて行われているため、「提言型政策仕分け」の提言は、作業に当たっては、原子力研究開発機構(JAEA)による「『もんじゅ』を用いた高速増殖炉の研究開発の存続の是非を含め」抜本的に見直すようにというものです。最終的に政策がどうなるかは未定という状況には変わりありません。

その意味では、11月17日に小委員会でもんじゅ問題を議論した衆院決算行政監視委員会(新藤義孝委員長)が、高速増殖炉計画について「もんじゅ」の中止も含めた抜本的見直しを勧告することを決めたと報じられていることの方が重要かもしれません。

参考 

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具体的削減が提言されたのは?

高速増殖炉予算の342億円のうちの22億円の計上見送りです。

会議は、2012年度予算のうち「もんじゅの予算については、来年度中の出力試験再開を前提とする調整費22億円の予算は計上を見送る」よう提言しました。この調整費というのは、来年、政府の方針としてもんじゅの出力運転実施が決まった場合に備え、一応要求しておくという予算です。これが集中的な批判を浴びました。

もんじゅは運転しなくても維持費が200億円余り掛かります。2011年度当初予算が216億円に対して、2012年度概算要求で約193億円。これに「調整費」を足すと215億円。もんじゅ費用はほぼ同額となります。9月に文部科学省原子力関連予算の概算要求額が提示された際に、7割削減と報道されたのは、もんじゅに続く実証炉開発に向けた「高速増殖炉サイクル実用化研究開発」費用の方です。2011年度当初予算が約100億円だったものが、2012年度概算要求では約33億円となりました。文科省の高速増殖炉関連予算の総額では、2011年度当初予算が約408億円だったのに対し、2012年度概算要求では、約342億円です。つまり、2割も減っていません。「調整費」22億円を引いて、やっと、2割強の削減となります。なお、高速増殖炉研究費としては、他に、経済産業省の約31億円があります。(表参照。)

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もんじゅは廃炉か?

可能性は出てきているが確実ではありません。

「調整費」計上見送りが、もんじゅの廃炉、ひいては、高速増殖炉計画の見直しに繋がるかどうか。会議の雰囲気は、高速増殖炉計画全体について疑問を呈するものではありました。例えば、枝野経済産業大臣は「『これまで高速増殖炉の関連で使ってきた2兆円を、すべて再生可能エネルギーや省エネルギーの開発に使っていたらどうなっていたか』という視点が必要だ。原子力がなくても、やっていける社会を作っていくにはどうすればいいのか検討するのが、今、政治がやならければならない仕事だ」と発言しています。しかし、来年夏頃の「革新的エネルギー・環境戦略」の決定の先取りを避け、会議ではこの22億円以外の削減要求には至りませんでした。

ただ、会議でも「もんじゅ」の技術がすでに古いものとなっていることを指摘していた細野豪志原発事故相は、11月26日に福井県敦賀市でもんじゅを視察した際、「設備も若干古いところがあり、さまざまなトラブルで実用化の目標時期が延びてきたこと自体、一つの曲がり角に来ている印象だ」と述べ、廃炉を含め検討すべきとの見解を明らかにしました。

そして、前回(2005年)の長期計画の改定の時は、従来の路線を継続したが「今度の原子力政策大綱の見直しの議論では、問題の先延ばしは許されず、来年、何らかの判断をしなければならない」と述べています。しかし、そもそも、もんじゅを含めた高速増殖炉計画の推進を唱え続けてきた原子力委員会が選んだ委員で構成される原子力政策大綱策定会議だけに判断を任せて良いのかどうか自体が、大いに議論されるべきでしょう。

参考

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もんじゅが廃炉なら高速増殖炉計画は?

もんじゅの廃炉が決定されれば、それは高速増殖炉計画にとって極めて重要な意味を持ちますが、現時点では、もんじゅ廃炉が決定されても、それが自動的に同計画全体の中止を招くという流れにはないようです。

例えば、仕分けの議長を務めた玉木雄一郎議員は「これまで、1兆円、2兆円とつぎ込んできて、さらに40年しないと完成しないことにお金をつぎ込んでいく・・・そのまま普通に続けていいのかという、単純な疑問に答えられていない」と述べる一方、原型炉もんじゅの利用を止めて、いきなり実証炉開発に移ることがなぜできないのかと聞いています。

もんじゅ関連予算としてこれまで1兆円あまりが使われています。2005年原子力政策大綱では、高速増殖炉実用化の時期を2050年頃としています。
(1956年に「わが国の国情に最も適合」する原子炉とされた高速増殖炉の実用化の予測は、
 1961年には、1970年代、
 1967年には、1985─90年、
 1972年には、1985─95年、
 1978年には、1995─2005年、
 1982年には、2010年、
 1987年には、2020年代から2030年、
 1994年には、2030年、
 2000年には「柔軟かつ着実に検討」となり、
 2005年原子力政策大綱では「2050年頃から商業ベースで導入」となっている。)

参考

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高速増殖炉計画大幅縮小・中止なら再処理は止まるか?

現状では、たとえ、高速増殖炉計画が完全に中止となっても、それが自動的に再処理計画が止まる状況にはありません。

再処理は、元々は、高速増殖炉用にプルトニウムを提供する目的で構想されたものですが、現在は、六ヶ所再処理工場運転の正当化議論の中心が使用済み燃料の置き場の不足となってしまっているからです。(1円/kWhの差は重要か?参照)民間の事業ということで、仕分けの議論の対象にはなりませんでしたが、国策民営で進めてきた原子力政策を見直すなかで、六ヶ所問題を早急に議論する必要があります。そして、これは決して原子力村に任せておくべき議論ではありません。


リンク集・抜粋・予算表


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「行政刷新会議・提言型政策仕分け」

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11月20日会議提出の各省資料

高速増殖炉関係各省資料

財務省による文部科学省・経済産業省両省の予算まとめ他)

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抜粋

高速増殖炉関係 A1-2 : 原子力・エネルギー等:原子力関係研究開発

評価結果

(論点③)

高速増殖炉の技術開発については、来年夏頃に「革新的エネルギー・環境戦略」で決定される予定であるが、その検討に当たっては、現在のJAEAによる「もんじゅ」を用いた高速増殖炉の研究開発の存続の是非を含め、従来の体制・計画を抜本的に見直し、再検証を行い、国民の徹底した納得を得られる結論を得ること。

平成24年度の予算編成について提言する。高速増殖炉「もんじゅ」を含む原子力関係の研究開発予算については、3月11日に発生した福島第一原発の事故の状況等をよく勘案し、国民の納得を得られるよう更なる事業の絞り込み・合理化を図る。その際、事故対策・安全対策に重点化を行う。これが、もんじゅを含む原子力関係研究開発全般に係る提言である。

次に24年度予算のもんじゅの予算については、来年度中の出力試験再開を前提とする調整費22億円の予算は計上を見送るべきである。なお、維持管理経費についても、真に維持管理に必要な経費に更なる削減合理化を図るべきである。これが24年度予算にかかわる原子力関係及びもんじゅに係る提言である。

出典 提言型政策仕分け詳細と結果速報 - 2011年11月20日

財務省によるもんじゅ予算批判

 『もんじゅ』対応調整費 (24年度概算要求 22億円)<23年度 0億円>【文部科学省】

  『もんじゅ』研究開発費は23年度216億円で、24年度は193億円が概算要求されている(後述2参照)。

  エネルギー政策・原子力政策の見直しが行われている中、一方で、『40%出力プラント試験』を実施することができるか否か明らかでないという理由で、出力プラント試験に充てるための費用を『もんじゅ』

 研究開発費とは別に、『もんじゅ』対応調整費として22億円要求しており、これらの合計215億円は、23年度の216億円とほぼ同額の要求となっている。

  24年度にプラント出力試験を実施することが適切と考えているのか。また、可能と考えているのか。

2 『もんじゅ』研究開発費・対応調整費 (24年度概算要求合計 215億円)<216億円>【文部科学省】

  狭義の維持管理費は157億円とされるが、実質的には215億円全てが維持管理費。昭和55年度以来、1兆円近い資金が投入されているにもかかわらず、現在、出力プラント試験は何ら行われていない。これが果たして研究開発と言えるのか。1兆円近い資金投入の費用対効果についてどう考えているのか。

  そもそも、ナトリウム漏れ事故等これまでの『もんじゅ』の経緯にかんがみ、平成6年度に建設されたプラントが17年経っても未だ機能していない状態であることに照らすと、果たしてこのプロジェクトに今後の展望はあるのか。1年後、3年後、10年後には具体的にいかなる成果が期待されるのか。説得力ある形で国民に説明する必要があるのではないか。

  原子力発電所事故発生後も依然として、維持管理費が前年度とほぼ同額の215億円要求されているが、本当に維持管理費に215億円必要なのか。維持管理費といっても人件費が大量に含まれているのではないか。平成18年度以前は120億円程度で足りていたのに、なぜ215億円に膨れあがっているのか。何にいくら必要で、いかなる要因で増加しているのか等積算根拠が明示されないため不透明であり、維持管理費の積算(どの作業に、いくらの単価で何人日分、誰に、どのように支払っているか)を示すべきではないか

財務省論点別シート

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上にリンクを示した11月20日の会議の資料などから、高速増殖炉関連予算を表にまとめると?

高速増殖炉関連予算比較(単位:100万円)
 2011年度予算額2012年度要求額
文部科学省
もんじゅ研究開発(維持管理・安全性向上)運営費交付金21,23017,741
施設整備費補助金3621,539
21,59219,280
対応調整費(運転再開決定に備え要求)運営費交付金02,223
合計21,59221,503
高速増殖炉サイクル実用化研究開発運営費交付金9,5873,323
施設整備費補助金4210
10,0083,323
文部科学省上記合計31,60024,826
文部科学省総額(上記ち常陽及び全体に付随する費用を加算)40,80034,215
経済産業省
「第4世代原子炉システムに関する国際フォーラム(GIF)」の下での
ナトリウム冷却高速炉に関する安全設計要件の構築に向けた取組
7,3903,120
両省高速増殖炉予算合計48,19037,335
参考:両省原子力関係予算総額
文部科学省244,100284,900
経済産業省181,200180,100
両省合計425,300435,000
*注

表の数字に、さらに、原子力委員会の資料にある「『東日本大震災からの復旧・復興対策に係る経費』のうち原子力対応に係る経費」というのが加わる。この復旧・復興関連原子力関係費用は、環境省の約4590億円を含め各省合計で約5000億円に上る。これらを合わせると、原子力関係費用は総額約9400億円となる。

参考

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提言型政策仕分け評価者名簿

【国会議員】
仙谷 由人 衆議院議員
吉良 州司 衆議院議員
階  猛  衆議院議員
玉木 雄一郎 衆議院議員
辻元 清美 衆議院議員
寺田  学 衆議院議員
大塚 耕平 参議院議員
亀井 亜紀子 参議院議員
藤本 祐司 参議院議員

【民間有識者】

赤井 伸郎 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
秋池 玲子 ボストンコンサルティンググループ パートナー&マネージング・ディレクター
井伊 雅子 一橋大学国際・公共政策大学院教授
石田 芳弘 元・犬山市長
市川 眞一 クレディ・スイス証券(株) チーフ・マーケット・ストラテジスト
岩瀬 大輔 ライフネット生命保険(株)代表取締役副社長
太田 康広 慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授
鬼木  甫 (株)情報経済研究所代表取締役所長
梶川  融 太陽ASG有限責任監査法人総括代表社員
川島 博之 東京大学大学院農学生命科学科准教授
河野 龍太郎 BNPパリバ証券会社 経済調査本部長・チーフエコノミスト
伊永 隆史 首都大学東京都市教養学部教授
昆  吉則 月刊「農業経営者」編集長、(株)農業技術通信社代表取締役
佐藤 主光 一橋大学大学院・政策大学院経済学研究科教授
鈴木  亘 学習院大学経済学部経済学科教授
高橋  洋 富士通総研経済研究所主任研究員
土居 丈朗 慶應義塾大学経済学部教授
十市  勉 (財)日本エネルギー経済研究所顧問
富田 俊基 中央大学法学部教授
盛田 清秀 日本大学生物資源科学部食品ビジネス学科教授
山口 誠史 国際協力NGOセンター事務局長
山田  肇 東洋大学経済学部教授
山本 美香 ジャーナリスト、ジャパンプレス
吉田 あつし 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授
渡辺 龍也 東京経済大学教授
【副大臣・大臣政務官】
中塚 一宏 内閣府副大臣(行政刷新担当)
園田 康博 内閣府大臣政務官(行政刷新担当)

出典 行政刷新会議ワーキンググループ(提言型政策仕分け)評価者名簿 (pdf)

評価者名簿を掲載(平成23年11月18日現在)

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国会版仕分け

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