核情報

2008.7.11

英国の元外相ら4人、核廃絶訴え、米国の4人に倣えと投稿──英『タイムズ』紙

6月30日に「心配し始め、核兵器を厄介払いすることを学べ──簡単ではないが、核兵器のない世界は可能だ」との文章を発表したのは、3人の元外相、元NATO事務総長)です。4人は、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙で「核のない世界」の実現を訴えたキッシンジャーらに続けと述べています。昨年来、WSJ紙の文章を意識した英国の外相(当時)、首相、国防相らによる発言が続いています。

3人の元外相(ダグラス・ハード、マルコム・リフキンド、デイビッド・オーウェン)と元「北大西洋条約機構(NATO)」事務総長(ジョージ・ロバートソン)は、テロリストが核兵器を入手しかねないようになったいま、「核のない世界」に向けて早急に行動することが必要だとし、核兵器の大幅削減を訴えています。さらに、2009年に失効する1991年の「戦略的核兵器削減条約(START)」の検証規定の延長、ミサイル防衛についての米ロの合意、核物質の保安体制の強化、IAEAの追加的保障措置の受け入れ、「包括的核実験禁止条約(CTBT)」発効、検証体制の下での核燃料の安定した提供などの必要性について触れています。

元外相らの文章は、キッシンジャーらの提案が英国でも浸透しつつあることを示しています。すでに、2007年6月26日には、カーネギー国際平和財団の会議でマーガレット・ベケット外相(当時)が核廃絶案に支持を表明し、その検証措置についてノルウェーと共同研究を行っていると述べています。(もっとも、2006年12月には、ブレアー首相(当時)が、核兵器の数を20%減らして160以下にするとしながらも、核兵器は「最終的保険」と形容し、現状や不確かな将来を考えると、核兵器を放棄するのは「賢明ではなく危険だ」と述べていました。)また、今年1月21日にはゴードン・ブラウン首相がインドで、「核兵器のない世界を最終的に達成するための国際的キャンペーンの先頭に立つ」と宣言しました。そして、2月5日には、デス・ブラウン国防相が「軍縮会議(CD)で演説し、英国の国防相がCDで発言するのは異例だと承知しているが、核軍縮への取り組みに優先順位を置いていることを強調するために出席していると述べました。

以下、これらの発言の抜粋訳を載せました。

  1. 元外相ら投稿 英『タイムズ』紙 2008年6月30日
  2. カーネギー国際平和財団の国際会議でのマーガレット・ベケット外相の演説 2007年6月26日
  3. インド商工会議所でのゴードン・ブラウン首相の演説 2008年1月21日
  4. 「軍縮会議(CD)」でのデス・ブラウン国防相の演説 2008年2月5日

●参考



元外相ら投稿 英『タイムズ』紙 2008年6月30日

「心配し始め、核兵器を厄介払いすることを学べ──簡単ではないが、核兵器のない世界は可能だ」 ダグラス・ハード、マルコム・リフキンド、デイビッド・オーウェン、ジョージ・ロバートソン

冷戦時代、核兵器は、世界を比較的安定した場所にするという逆説的な効果を持っていた。今やそうではなくなった。世界は、新しい危険な段階に至る瀬戸際にある。・・・

テロリスト団体の一部は、自分たちの虚無的目的を達成するために大量破壊兵器を使うことに躊躇しないだろう。・・・

核兵器の量を劇的に減らすことに強力な理由がある。新しい歴史的なイニシアチブが必要だが、集団的な、そして多国間の機関を通した作業によってのみ成功を収めることができる。この1年間で、影響力のあるプロジェクトが米国で発展してきた。率いているのは、ヘンリー・キッシンジャー、ジョージ・シュルツ、ウイリアム・ペリー、サム・ナン。すべて指導的な政策立案者らだ。彼らは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙で二つの記事を発表し核兵器のない世界のヴィジョンを描いて見せ、いくつかの措置を説明した。合わせれば目的達成に役立つというものだ。ジョン・マケイン上院議員は、最近、この分析の支持を表明した。バラク・オバマは、同様に賛成するだろう。

同じような議論がこの国でも、そしてヨーロッパ全体でも必要だ。・・・

世界の核兵器の劇的な削減に向けての相当な進展が可能だ。最終的目標は、核のない世界の達成であるべきだ。時間がかかるが、政治的意思と監視の改善によって、目標は達成できる。我々は、手遅れになる前に、行動しなければならない。それは、核のない世界に向けた米国でのキャンペーンを支持することから始めることができる。

カーネギー国際平和財団の国際会議でのマーガレット・ベケット外相の演説 2007年6月26日

今日ここにおられる多くの人は──全員でないとして──今年初めに『ウォール・ストリート・ジャーナル』に出た記事を読んでおられると思います。筆者らは、この国の読者にはよく知られているだけでなく、世界中で尊敬されています。ジョージ・シュルツ、ウイリアム・ペリー、ヘンリー・キッシンジャー、サム・ナンです。

この記事は、「アメリカの道徳的伝統に従った大胆なイニシアチブ」について提唱しました。このイニシアチブは、核のない世界というヴィジョンを再燃させ、それに向けた実際的な措置に関する努力を強化するためのものでした。・・・

新しい思考方法についていうと、「国際戦略研究所(IISS)」は、すべての核兵器の最終的廃絶の要件について明らかにするために詳細な研究を計画しています。我々は、この研究に参加し、彼らのワークショックの一つ──この分野における決定的に重要な技術的問題のいくつかに焦点を当てたもの──のための資金を提供します。

この研究と、それに続くワークショップは、核のない世界についてのコミットメントは、実際的には何を意味するのかについて徹底的で系統的な分析をすることになります。どのような兵器と施設がなくなれば、核兵器が廃絶できたと言えるのか。民生用の施設には、どのような保障措置を設ける必要があるか。他の誰も核兵器を持っていない、開発してもいないと誰もが確信を持てるようにするため、どのようにして透明性を増し、検証体制を確立するのか。そして、最後に、おそらくはこれが一番難しいのでしょうが、どのような道をたどれば、世界的安全保障を損なう可能性のある新たな不安定を生み出すのを避けながら完全な核軍備撤廃に至ることができるのか。

そして、実際的作業の新たな分野があります。これは、国家安全保障関連情報や核拡散につながる機微な情報などを与えることのない、堅固で信頼された効果的検証システムを作り出すという課題に集中するものです。

10年近く前、私たちは、英国「核兵器研究所(AEW)」に核兵器の削減と廃絶を検証する方法・技術についての我が国の専門能力を発展させ始めるようにと依頼しました。この研究については、前回の「核不拡散条約(NPT)」再検討サイクルの期間を通じて報告しました。いま、この研究に基づき、検証過程のいくつかの主要段階についてもっと深く検討することにしています。そして、できるだけ早く、報告します。・・・

研究を深化させようとしているひとつの分野は、本物であるかどうかの確認です。つまり、解体用として提示されたものが実際に弾頭であるか確認するということです。これには、難解な安全保障上の問題が伴います。現在のところ、我々は、この分野でノルウェーと技術的コンタクトを進めています。非核兵器国として、ノルウェーは、我が国の研究に、貴重な別の視点を提供してくれるでしょう。・・・

....

先に、核のない世界が実現をこの目で見るまで私が生きていることにはならないだろうと述べました。このような考えについて本当に悲しいと思っています。私の世代は、核兵器の影の下で生きてきました。人類全体に終焉をもたらすことのできる兵器が存在していると意識しながら。私たちは、この根底に流れる恐怖──1962年のキューバ危機、1983年のエイブル・アーチャー恐怖体験[NATO演習をソ連側が核攻撃準備と誤解]、そして2002年に印パの対立が思い知らせた恐怖──にほとんど慣れてしまっています。

しかし、非常に恐ろしいものに慣れてしまうというのは危険です。軍縮のための努力をゆるめてしまえば、核不拡散のコンセンサスが当然なものと思い込んでしまえば、私たちを覆っている核の影は、長くなり、そして、深化してしまいます。そして、ある日、光を完全に消してしまうかもしれません。

ですから、核のない世界に対する私のコミットメントは、揺るぎのないものです。この部屋にいる私たちは誰も、この道の端までは到達しないかもしれませんが、それに向けた最初の数歩を踏み出すことができます。どの世代にとっても、それは、崇高な使命と言えるでしょう。私たちにとっては、それは、義務です。

インド商工会議所でのゴードン・ブラウン首相の演説 2008年1月21日

世界は、大量破壊兵器の拡散に対し対応しなければならないが、そのための適切な能力を持っていない。我々は、非国家テロリズムの台頭、市民に対する紛争の際やジェノサイドからの脅威、そして、再建を支持し平和を迅速に確保する必要などに直面してきた。だから、紛争を防止し、あまりにもしばしば目撃してきたもの--すなわち崩壊した、あるいは崩壊しつつある国家──を安定させ、再建を実現するという新たな野心的アジェンダを設定するときでもある。そして、イランや北朝鮮の深刻な問題に直面している今、我々は、国際社会に対して、より大きくてより多量の核の破壊兵器を求める競争は終わったという強烈なシグナルを送らなければならない。残っている米ロの兵器協定の失効問題、これらの膨大な量の兵器の存在、核分裂性物質生産禁止条約の手詰まり状態、包括的核実験禁止条約などすべてに対処しなければならない。

英国は、核弾頭の検証可能な廃絶の要件が何かを明らかにするために我が国の専門能力を使う用意があるということを言っておきたい。そして、我々は、2010年の「核不拡散条約(NPT)」再検討会議までの期間、核保有国の中で軍縮を加速させ、新たな国家への拡散を防止し、そして、核兵器のない世界を最終的に達成するための国際的キャンペーンの先頭に立つと約束する。

「軍縮会議(CD)」でのデス・ブラウン国防相の演説 2008年2月5日

英国は、運用可能な核弾頭の数を160以下に減らすことによって最も目に見える形で貢献した。・・・

英国政府からの寄与を得て、「国際戦略研究所(IISS)」が、核のない世界のための政治的・技術的要件について検討している。今年中に発表されることになっている最終報告書に期待している。

しかし、私が焦点を当てたい一つの分野は、核軍縮の検証に関する私たちの作業だ。

マーガレット・ベケットが昨年言ったとおり、私も、英国が「核軍縮実験場」と見られることを望んでいる。どういうことかというと、英国がロールモデル、実験場になるということだ。我が国や他の国が核軍縮の主要な面でとるべき措置関して。とりわけ、検証可能な核兵器廃絶のための要件を明らかにするのに必要な措置に関して・・・

英国は、この点で先頭に立つ用意がある。核弾頭の解体を技術的に検証する方法に関する研究が、英国の「核兵器研究所(AWE)」で進められている。・・・

AWEは、この一年間、ノルウェーのいくつかの防衛研究所と技術的協力イニシャチブを発展させてきた。ノルウェーとの協力過程では、我々のそれぞれのNPT上の義務に反することを避けなければならない。このこと自体が、将来の多国間協議がどのように進むべきかについて、有益な情報を提供する役目を果たす。・・・

完全な核軍備撤廃の条件を作り出すために我々として貢献することに真剣であるなら、核兵器国の間で核軍備撤廃に関するもっと深い技術的関係を築き始めなければならない。

それで、この会議に提案を持ってきた。次のステップとして、そして、AWE研究を継承する形で、英国は、2010年に開かれる次回NPT再検討会議までに核軍縮の検証に関するP5(安保理常任理事国5ヶ国)の技術会議を主催する用意がある。・・・

核兵器のない世界というあの共有されたヴィジョンに向かって進むことを可能にする基礎を築くために、決意と野心を持って、協力しよう。


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