北朝鮮のプルトニウムのほとんどは、寧辺(ヨンビョン)にある電気出力5メガワット(5000キロワット)の実験用原子炉で生産されたものです。これは北朝鮮が英国の炉を参考に独自で作ったものですが、ごく少量が、同じく寧辺にある旧ソ連提供のIRT-2000研究用原子炉(プール型軽水減速・冷却炉)で生産されたと見られています。(1994年の合意枠組みにより、もっと大型の2基の原子炉の建設が中止され、その後建設再開に到っていません。)
実験用原子炉の運転歴(出力レベル・稼働日数など)についての推測から生産量が推定されています。米国の「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」のデイビッド・オルブライト所長らは、2007年2月に発表した論文で北朝鮮のプルトニウム生産・分離量を下の表のように推定しています。2007年2月現在で原子炉での生産量合計が51.5─69kg、分離済みプルトニウム量は33-55kg。核兵器一個当たりの量を4─5kgとすると、6─13 個分という計算です。2006年10月の最初の核実験で5kg使われたとして、2007年2月現在残っているのが5─12個分となります。
(なお、シーグフリード・ヘッカー元ロスアラモス国立研究所長は、2006年11月に同月現在の現在の分離済みプルトニウム量を40─50kg、炉内の量を4─8kgとする推定を発表しています。)
原子炉での生産 | 再処理による分離 | 核兵器にすると* | ||
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取出時期 | 生産量 | 時期 | 分離量 | |
1990年以前 | 1─10kg** | 1989─92年 | 0─10kg | 0─2個 |
1994年 | 27─29kg | 2003─04年 | 20─28kg | 4─7個 |
2005年 | 13.5─17kg | 2005─06年 | 13─17kg | 2─4個 |
2007年2月炉内 | 10─13kg | |||
生産量合計 | 51.5─69kg | 33─55kg | 6─13個*** | |
2006年実験用を引くと | 46─64kg | 28─50kg | 5─12個 | |
2007─2009 | 10─13kg | 2009年 | 10─13kg | 2─3個 |
合計 | 51.5─69kg | 43─68kg | 8─17個 | |
2006・2009年の実験用を引くと | 41─59kg | 33─58kg | 6─14 個 | |
原注:
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緑の線の下の部分は核情報による追加です。北朝鮮は、2009年11月、この炉の使用済み燃料を2009年8月までにすべて再処理したと発表しています。2007年2月六ヶ国協議で初期段階措置として核施設運転停止が合意されました。7月に原子炉停止がIAEAにより確認され、翌2008年6月27日、冷却塔が爆破されました。これらの事実から、2007年2月以後の生産はあったとしてもわずかと判断し、2月時点で炉内にあった量がそのまま再処理で分離されたとしました。2009年5月の実験で使われた量はISISの2006年の実験の推定をそのまま使って5kgとして計算しました。2010年春現在6─14個分保有しているとの推定となります。
2008年6月26日、北朝鮮は核計画についての申告書を中国に提出しました。プルトニウムを38.5kg生産、31kg分離、うち2kgを核実験に、26kgを核兵器に使用と説明したと報じられています。オルブライトらは、これらの生産・分離量は、ISISの推定値の下限に近いものだとし、疑問点は検証によって解明していくべきだと述べています。原子炉の減速材(黒鉛)のサンプルの分析によってプルトニウム生産量を計算する技術があります。しかし、北朝鮮がサンプルを提供するまでは、推定は上述のような計算による他はありません。