核情報

2021. 4.12

世界の核兵器の状況 2021

原文:Status of World Nuclear Forces - Federation of American Scientists
米国科学者連合(FAS)
ハンス・クリステンセン、マット・コルダ
(*注:FASの承諾を得て全文訳出)

[更新:2021年3月]世界の核兵器の数は、冷戦時以来、相当に削減されている。1986年のピーク時は約7万300だったものが、2021年初頭には1万3100となっていると推定される。政府関係者は、しばしば、この「成果」を、現在または最近の軍縮協定によるものだと説明するが、削減のほとんどは、1990年代に起きている。また、現在の数字と1950年代の数字を比較するものもいるが、それはリンゴとミカンを比べるようなものだ。今日の核戦力の能力は大幅に拡大している。 削減のペースは、1990年代と比べると相当鈍化しており、継続しているのは、退役核の解体だけによるもののようである。軍用保有核(運用状態の核兵器)の数は、また、増え始めている。 核保有国は、核軍備撤廃のための計画をするのではなく、今後ずっと大量の核兵器を維持する計画のようであり、新型の核兵器を追加し、それぞれの国家戦略においてこれらの兵器が果たす役割を増大させている。

世界の核弾頭数の変遷
世界の核弾頭数推定 1945-2021
世界の核兵器総数 (軍用保有核+解体待ちの退役核)
ソ連/ロシアの軍用保有核
米国の軍用保有核
米・ソ/ロ以外合計:中国、フランス、インド、イスラエル、北朝鮮、パキスタン、南ア、英国

冷戦時代の核兵器数の削減の進展にもかかわらず、世界の核兵器の数は非常に高いレベルにとどまっている。2021年初頭現在、約1万3100発である。9590発近くが軍用保有核で(残りは解体待ち)、そのうち、約3800発が実際に配備されおり、うち、米・ロ・英・仏の約1900発が高い警戒状態に置かれていて、短時間の内に使える状態にある(Reducing Alert Rates of Nuclear Weapons (pdf))。
全ての核兵器の約91パーセントを米ロが保有しておいる。両国の軍用保有核はそれぞれ、約4000発である。他の核保有国は、国家安全保障のために数百発以上を保有する必要があるとは見ていない。


世界の核弾頭数2021
世界の核弾頭数推定 2021
核兵器総数
(軍用保有核
 +解体待ち退役核)
軍用核弾頭
(配備+予備)
配備核弾頭
(弾道ミサイル搭載
 +爆撃機基地配備
 +米国の欧州配備非戦略核爆弾)
利用可能な
核分裂性物質から
製造可能な核弾頭
* 「*」付きの数字は、軍用保有核と、配備途中の新しい発射機用に製造されたと推定される核弾頭の両方を含む。
退役核
軍用保有核
配備核弾頭

世界全体の核兵器の総数は減少してきている。しかし、そのペースは、過去30年と比べると鈍化している。しかも、この減少は全て、米ロで過去に退役となった核弾頭の解体がまだ続いていることからくるものである。一方、軍用保有核(運用状態の戦力に割り当てられた核兵器)の方は、増え始めている。米国は、おそらく、保有核の数を減らしているだろうが、横ばい状態に入りつつあるようだ。フランスとイスラエルは、比較的一定している。しかし、中国、インド、北朝鮮、パキスタン、ロシアは、すべて、保有核を増やしていると見られる。

核保有国は全て、残っている核戦力の近代化を続けており、新型を追加し、核兵器の果たす役割を増やすとともに、核兵器を将来に亘って維持する意向のようである。世界全体の近代化計画概観については、我々のSIPRI年鑑への寄稿を参照:World nuclear forces(pdf)。各国の状況については、FASのニュークリア・ノートブック(Nuclear Notebook)を参照(訳注:核問題専門誌ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ誌の連載記事)。
しかし、このような限界にもかかわらず、公開されている情報、歴史的な記録の注意深い分析、そして、時折のリークなどにより、各国の保有核の数や構成についてできる限り正確な推定をすることは可能である。
各国が保有している核兵器の正確な数は、重要な国家機密である。ほとんどの核保有国は、基本的に、保有核数について何も情報を提供していない。しかし、秘密の度合いは、国によって相当異なる。米国は、2010年から2018年まで、保有核の数を公表していたが、2019年にトランプ政権が、この慣行を中止した(Trump Administration Again Refuses To Disclose Nuclear Weapons Stockpile Size)。

世界の核兵器の状況2021年*
 国名 配備戦略核 配備戦術核 予備/非配備 軍用保有核a 総数b
ロシア  1,600c 0d  2,897e 4,497 6,257f
米国  1,700g 100h  2,000i 3,800j 5,550k
フランス  280l n.a. 10l 290 290
中国  0m ? 350 350 350m
英国 120n n.a. 75 195 195n
イスラエル  0 n.a. 90 90 90o
パキスタン  0 n.a. 165 165 165p
インド  0 n.a. 160 160 160q
北朝鮮  0 n.a. (40) (40) (40)r
合計s  ~3,700 ~100 ~5,790 ~9,590  ~13,100

この表の見方:「配備戦略核」は、大陸間弾道弾に搭載のものと、重爆撃機の基地に置かれているもの。「配備非戦略核」は、運用状態にある短距離運搬手段の置かれた基地に配備されているもの。「予備/非配備」核は、発射装置に搭載されておらず、貯蔵されているもの(爆撃機基地にある核兵器は配備されているとみなす)。「軍用保有核」は、軍の管理下にあり、就役運搬手段に割り当てられた活性(アクティブ)及び非活性(イナクティブ)[すぐには使用できない]の核弾頭を含む。「総数」は、軍用保有核に加えて、退役となりながらそのままで解体を待っている核弾頭も含む。
さらに細かくは、表に付けられた注を参照(注:推定はアップデートされるので、下に示す印刷物のものとは異なるかもしれない。

  • *今回の更新:2021年3月。すべての数字は、大まかな推定で、さらに細かくは、『ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』誌に掲載されている我々のFASニュークリア・ノートブックや、SIPRI年鑑(SIPRI Yearbook)の『世界の核戦力』概観で説明されている(2020年版の同章はこちら:World nuclear forces (pdf))。さらに追加的報告書がFAS戦略安全保障ブログ(FAS Strategic Security Blog)で発表されている。これらの発行物と異なり、このウェブ・ページは、新しい情報が得られ次第、継続的に更新されている。このため、推定値は異なる場合がある。
  • a「軍用保有核」の核弾頭は、軍の管理下に置かれ、軍部用に割り当てられているものと定義されている。
  • b 「総数」は、軍用保有核に加えて、退役となりながら、そのままで解体を待っている核弾頭も数えている。
  • c この数字は、新START条約の下で発表された集計データより高くなっている(At 11th Hour, New START Data Reaffirms Importance of Extending Treaty(October 1, 2020))。なぜなら、この表では、爆撃機基地にある爆撃機用兵器も配備として勘定しているからである。2021年現在のロシア軍の詳細な概観はこちらに:Russian nuclear forces, 2021(pdf)
  • 表の数字は、その後の変化を反映して更新されている(訳注:2月の同条約延長後の最初の集計データについてはこちらを参照。First New START Data After Extension Shows Compliance(April 6, 2021))。
  • d これらはすべて集中貯蔵施設にあると宣言されているが、一部の貯蔵施設は運用中の戦力の置かれている基地の近くに位置しているかもしれない。退役となった数多くの非戦略核弾頭が解体を待っていると考えられている。
  • e 985発と推定される戦略核弾頭と1912発のすべての非戦略核弾頭が含まれる。
  • f 軍用保有核に入る4497発の核弾頭に加えて、推定1760発の解体待ち退役核弾頭がここに入る。公開された詳細情報は少ないが、我々は、ロシアは年間200~300発の退役核弾頭を解体していると見る。ロシアの保有核の数は議論の対象となっている。米戦略軍とインテリジェンス・コミュニティーの一部は、次のように主張している(STATEMENT OF CHARLES A. RICHARD COMMANDER UNITED STATES STRATEGIC COMMAND BEFORE THE SENATE COMMITTEE ON ARMED SERVICES 13 FEBRUARY 2020(pdf))。
  • 「ロシアの全体的な核兵器の数は向こう10年間で相当増えるだろう。この増加は、主として、予測されているロシアの非戦略核の増強による。」これとは異なる意見もある。大きな不確実性をもたらしているのが、戦術兵器のうちどれぐらいが、通常兵器ではなく、新しい核兵器バージョンとなるか、という問題だ。2021年のロシアの核戦力概観はこちらを参照:Russian nuclear forces, 2021(pdf)。
  • g この数字は新START条約の下で発表された集計データより高くなっている(At 11th Hour, New START Data Reaffirms Importance of Extending Treaty(October 1, 2020))。なぜなら、この表では、爆撃機基地にある爆撃機用兵器も配備として勘定しているからである。2021年現在の米国核戦力の詳細な概観はこちらに:United States nuclear forces, 2021(pdf)(訳注:2月の同条約延長後の最初の集計データについてはこちらを参照:First New START Data After Extension Shows Compliance(April 6, 2021))。
  • h 約100発のB61 型核爆弾がヨーロッパの5カ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコ)の6基地に配備されている。
  • i 非配備予備は、集中貯蔵されている推定1870発の戦略核弾頭と130発の非戦略核弾頭を含む。
  • j 米国は、2018年3月、同国の2017年9月現在の保有核の数を3822発と発表した( Despite Rhetoric, US Stockpile Continues to Decline) その後、トランプ政権は、数を公表しないことに決めた(Trump Administration Again Refuses To Disclose Nuclear Weapons Stockpile Size)。2017年9月以来、少数の核弾頭が退役となり、残っている保有核は3800発と推定される。
  • k 約3800発の軍用保有核に加え、解体待ちの核弾頭が約1750発ある。さらに、解体された核弾頭から取り出された約2万個のプルトニウムの芯(ピット)と約4000個のセカンダリー[水爆の第二段階部分]のセット(Canned Assemblies)がテキサス州パンテックス工場とテネシー州Y-12工場で貯蔵されている。米核戦力の詳細な概観についてはこちらを参照:United States nuclear forces, 2021(pdf)
  • l フランスが一隻だけ保有する空母用の核兵器は、通常は船に搭載されていないが、短期間で搭載できる。一部の潜水艦用ミサイルの核弾頭の搭載数は、目標設定の柔軟性を増すために減らされている。フランス核戦力の詳細な概要はこちらを参照:French nuclear forces, 2019(pdf)
  • m これらの350発の核弾頭のうち、272発が運用部隊に割り当てられているとみられる。残りの78発は、新型のDF-41と、新たに配備中の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦のために製造されたと考えられる。中国の核弾頭保有数についての我々の推定は、米国防総省の中国に関する年次報告書2020(Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2020 (pdf))の「200発強(low-200s)」より高い。なぜなら、国防総省の推定は、2019年末のもの(当時の我々の推定 (Chinese nuclear forces, 2019 (pdf))は290発) であり、「運用中」の核弾頭しか含んでいないのに対し、我々の推定は、配備過程のミサイル用に製造された核弾頭も含んでいるからである。このような違いがありはするが、これらの推定は、一部のものによる主張──中国は「300発よりずっと多く」保有しているかもしれない(Reject ‘No First Use’ Nuclear Policy(ハドソン研究所))とか、あるいは、それどころか「1600〜3000発」保有しているかもしれないとかいうもの(No, China Does Not Have 3,000 Nuclear Weapons(クリステンセン))──が根拠のないものであることを示している。しかし、中国は、その核兵器数を増やしている。米国戦略軍とインテリジェンス・コミュニティーの一部は、中国は、「2020年年代末までにその保有核数を倍増しそうだ」と主張している(STATEMENT OF CHARLES A. RICHARD COMMANDER UNITED STATES STRATEGIC COMMAND BEFORE THE SENATE COMMITTEE ON ARMED SERVICES 13 FEBRUARY 2020(pdf))。この増強は、既にかなり進行しており、我々の推定は、その一部を含んでいる。これらの核弾頭は、どれも、完全には配備されてはおらず、集中貯蔵状態にあると考えられる。中国は、自国の核兵器をすべて戦略核とみなしている。しかし、米国軍部は、中国の準中距離及び中距離ミサイルを非戦略核と呼んでいる。中国の核戦力の詳細な概要については、こちらを参照:Chinese nuclear forces, 2019(pdf)
  • n 英国のそれぞれの潜水艦に搭載されている核弾頭の数は、48発から40発に削減されている。このため、「作戦運用可能な」核弾頭の数は、160発から120発に減っている。元の計画では、2020年代半ばまでに、保有核の数は、「180以下」に下がることになっていた。しかし、ジョンソン政権は、2021年に、保有核は「最大で260発」に増大すると発表した(British Defense Review Ends Nuclear Reductions Era(クリステンセン))。英国の核戦力の詳細な概観はこちらに:The British nuclear stockpile,1953 - 2013(pdf) (2021年5月に改訂版掲載予定)。
  • o イスラエルは、核弾頭100~200発分のプルトニウムを生産しているが、運搬手段の数や、米国インテリジェンス・コミュニティーによる推定から、保有核は約90発程度と考えられる。2014年のイスラエルの核戦力の詳細な概観は、こちらに:Israeli nuclear weapons, 2014(pdf)
  • p パキスタンの核弾頭数の推定は大きな不確実性を伴う。パキスタン政府も西側政府も公開情報を提供していないからである。パキスタンの核弾頭は、どれも、ミサイルに搭載されておらず、集中貯蔵状態に──ほとんどが南部の地域で──置かれていると考えられている。核弾頭の製造が続いている。詳細な概観はこちらに:Pakistani nuclear forces, 2018(pdf)
  • q インドの核弾頭数の推定は大きな不確実性を伴う。インド政府も西側政府も公開情報を提供していないからである。準備態勢を高める努力は進められているが、インドの核弾頭は、どれも、ミサイルに搭載されておらず、集中貯蔵状態に置かれていると我々は推定する。爆撃機用核兵器は、比較的短時間で使用できるだろう。核弾頭の製造が続いている。インドの核戦力の詳細な概要はこちらに:Indian nuclear forces, 2018(pdf)
  • r 北朝鮮は、6回の核実験──10~20キロトン規模2回と200キロトン以上1回を含む──を経て、40発分ほどの核分裂性物質を製造している可能性があると我々は推定する。ただし、何発が組み立てられ、配備されているかを評価するのは難しい。中距離ミサイル用の核弾頭を少数組み立てているかもしれないと我々は推定するが、北朝鮮がICBMの射程距離に運べる実用的核弾頭を開発できたとの証拠は目にしていない。北朝鮮の核能力の詳細な概観はこちらに:North Korean nuclear capabilities, 2018(pdf)
  • s 四捨五入や、4つの小規模核保有国の運用状態の不確実性、そして、5つの最初の核保有国のうちの3カ国の総数の規模に関する不確実性などのため、これらの数字は、項目の合計に一致しない場合がある。

それぞれの国に関して得られる情報は、もっとも透明性の高い核保有国(米国)から、もっとも不透明な国(イスラエル)まで、大きく異なっている。そのため、米国に関する推定は、「実際の」数字に基づいているが、他の核保有国のいくつかに関する推定は、不確実性が極めて高い。


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