核情報

2023. 5.13〜

世界の核分裂性物質の量 2021〜22

「核保有国とその他の国の核分裂性物質(高濃縮ウランとプルトニウム)の量」の2022年初頭現在版を「核分裂性物資に関する国際パネル(IPFM)」が公表しましたので紹介します。この表の高濃縮ウラン(HEU = Highly Enriched Uranium:濃縮度20%以上)の部分には、様々な意味を持つ数字が入っているので注意が必要です。核兵器用のHEU(兵器級=濃縮度90%以上)、兵器級ではないが核兵器に直接利用することのできるHEU、それに、未使用(未照射)のHEUと、使用済み(照射済み)HEUなどです。詳しくは、解説をご覧ください。

参考
米国の民生用高濃縮ウラン輸出と核拡散 核情報 2004.2.28

核保有国とその他の国の核分裂性物質(高濃縮ウランとプルトニウム)の量

2022年初頭現在、世界全体に存在する未照射の高濃縮ウラン(HEU)の量は、約1250トンと推定されている。そのほとんど(約 1,100 トン)は、核兵器内にあるか、核兵器計画用のものだ。世界の分離プルトニウムの保有量は約550トン、そのうち410トンは核兵器計画外で生産されたもので、兵器には使用しない、もしくは核兵器用には適合しないという義務を負うもの。残りの140トンが核兵器用、もしくは核兵器に利用可能な状態にある。

2022年初頭現在 (トン)
国名 高濃縮ウラン
核兵器計画用
プルトニウム
核兵器計画用
ロシア 680 672 192 88
米国 487 361 87.8 38.4
イギリス 23 22 119.7 3.2
フランス 29 25 90.9 6
中国 14 14 2.9 2.9
パキスタン 5 4.9 0.5 0.5
インド 5 9.6 0.7
イスラエル 0.3 0.3 0.8 0.8
北朝鮮 0.7 0.7 0.04 0.04
その他 4 (15*) 48.3
合計 1250 1100 550 140
出典:International Panel on Fissile Materials

核情報注
* : 核情報による追加挿入。解説の非核保有国の項を参照。

核保有国以外を示す「その他」の項目のプルトニウム48.3トンは、2021年末の日本の国内外の保有量合計(45.8)と英仏での日本以外の外国籍のプルトニウム保有量(2.3+0.2)の合計とを合算したものです。日本のプルトニウム保有量、つまりは、再処理政策の特異性がこのデータからも分かります。

核保有国とその他の国のプルトニウムの量

2022年初頭現在 (トン)
国名 プルトニウム合計 核兵器計画用 核兵器用以外
 保障措置外
保障措置/監視下
ロシア 192 88 ± 8 88.5 15
米国 87.8 38.4 46.4 3
イギリス 119.7 3.2 116.5
フランス 90.9 6 ± 1 84.9
中国 2.9 2.9 ± 0.6 0.04
パキスタン 0.5 0.5 ± 0.17
インド 9.6 0.7 ± 0.15 8.5 ± 4.9 0.4
イスラエル 0.8 0.8 ± 0.1
北朝鮮 0.04 0.04
その他 48.3 48.3
合計 550 140 260 150
出典:Plutonium - International Panel on Fissile Materials

核保有国とその他の国の核分裂性物質(高濃縮ウランとプルトニウム)の量(2021)

2021年初頭現在 (トン)
国名 高濃縮ウラン
核兵器計画用
プルトニウム
核兵器計画用
ロシア67867219188
米国49536187.838.4
英国2322119.33.2
フランス292585.46
中国14142.92.9
パキスタン440.50.5
インド59.20.7
イスラエル0.30.30.80.8
北朝鮮0.70.70.040.04
その他4 (15*)48.6**
合計12551100545140

核情報注
* : 核情報による追加挿入。解説の非核保有国の項を参照。
** : 核情報による計算。日本の国内外の保有量合計(46.1)と英仏での日本以外の外国籍のもの(2.3 + 0.2)の合計とを合算(48.6)。四捨五入のため、合計が合わないことがある。

出典:International Panel on Fissile Materials

参考

日本のプルトニウム保有量


解説:表にある高濃縮ウラン(HEU)の数字について

いくつかの概念を整理した後、表の具体的な数字について見てみましょう。

概念の整理

  • 高濃縮ウラン(HEU)とは?
    核分裂を起こしやすいウラン235(天然ウランには約0.7%しか含まれていない)の率を20%以上に高めたもの。

  • 兵器級高濃縮ウランとは?
    ウラン235の濃縮度が90%以上のもの。核兵器を作る際には普通このレベルに濃縮するが、もっと低くとも、濃縮度20%以上(=高濃縮ウラン)なら兵器ができる。

  • 有意量(SQ=Significant Quantity)とは?
    国際原子力機関(IAEA)は、高濃縮ウランの中に含まれるウラン235の量で計算して25kgを有意量と定めている。これだけ行方不明になると核兵器が1個作られるかもしれないという意味の数字(工程ロスなども考慮)。実際には、18-20kgぐらいで初歩的な核兵器が1個できる。ただしこれは、ガンタイプ(砲身型)という広島型の場合ではなく、プルトニウム使用の長崎型の「爆縮方式」と同じ設計にした場合の数字。ガンタイプだと、兵器級のもので約50kg必要。

  • 広島に投下された原爆を作るのに使ったウランの量は?
    広島の場合は、約64kg。異なる濃縮度のウランを使用したが、平均80%の濃縮。
    これはウラン総量であって、ウラン235だけをはかった数字ではない。

核保有国

  • ロシアのHEUだけ、すべてが90%濃縮だとした場合の重量(90%濃縮換算)で記載されている。

  • 他の核保有国は、HEUの実際の重量で記載。

非核保有国

非核保有国のHEUは、IPFMの2022年版のものでは、国際原子力機関(IAEA)の年次報告2021(pdf)の表A4の数値から計算したものを示している。この数値は、IAEAの保障措置下にあるHEUを有意量(SQ)で示したものだ。156SQ、つまりSQの156倍ということだ。これがすべて濃縮度100%だとすると、上述の有意量の定義から、156X25kg=3,900kg(=約4トン)となる。すべてが濃縮度20%だとすると、156X(25÷0.2)=156X125=19,500kg(=約20トン)となる。5倍の差が生じるということだ。2022年版の表では、前者を使って、約4トン「以上」という意味で、4という数字が記載されている。言い方を変えると、4~20トンという意味だ。(なお、IAEAの元高官によると、IAEAは、SQ量を報告する際、燃料内の元のHEUの量を使うという。炉内での照射による減量は反映されないということ)。

だが、実際には、156SQには、カザフスタンにある閉鎖済みの旧ソ連の高速増殖炉BN-350 の使用済み燃料約10トン(最高26%濃縮)が含まれている。IPFM 2021年版では、IAEAの年次報告2020(pdf)の表A4の数値(156SQ)から非核保有国の実際のHEUの重量を合計を15トンとし、そのうちの未照射(原子炉で使っていないもの)を約4トンと推定して、この4という数字を使っている。つまり、2021年版と2022年版の両方が4トンと記載しているが、その数字の意味が違うという結果となっている。このため、核情報の判断で、IPFMの両年版に、2021年版にあった非核保有国の実際のHEU量の合計推定値を示す(15*)を追加情報として挿入してある。ただし、この数字はあくまでも推定であることに注意。(なお、156SQにはNPT非締約国用の協定「INFCIRC/66型保障措置協定」を結んだ国のものがIAEA年次報告2021では2SQ、年次報告2020では1SQ含まれている。これは印パ両国のものを意味する。このため、非核保有国の保有量を計算するには156SQではなく、それぞれ、154SQ、155SQを使うべき。もっとも、その差はわずかであり、実質的には総量に大きな影響を与えない。)

合計の数字の扱いに注意

以上のことから、単純に各国の数字を足した合計の年ごとの細かい差には大きな意味はないことに注意が必要。

カザフスタンHEUまとめ

カザフスタンのHEUはほとんどが旧ソ連の高速増殖炉BN-350の使用済み燃料だ。


備考:

プロジェクト・サファイア

1994年11月21日に581㎏のHEU(核爆弾20-25発分)がウルバ冶金工場から米国に輸送終了。

旧ソ連の秘密計画アルファ潜水艦用と言われるHEUが工場に保安体制の不十分な状態で保管されていたもの。これは、1990年代にダウンブレンドされた。

出典:GAO報告書


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