核情報

2006.9.24

加速する高速増殖炉推進の動き──科学技術・学術審議会委員会報告案(9月12日)

高速増殖炉(FBR)サイクルの推進に向けた動きが加速しています。それを示すものの一つとして、9月12日に文科相の諮問機関「科学技術・学術審議会」の中の委員会がまとめた『高速増殖炉サイクルの研究開発方針について』が挙げられます。この報告書は、原子力政策大綱(2005年10月)や、『原子力立国計画』(2006年8月)より高速増殖炉サイクルの導入時期を早めたものとなってます。高速増殖原型炉もんじゅ(電気出力28万kW)に続く実証炉(75万kW)運転開始を2025年頃、実用炉(150万kW)運転開始を2045年頃、第二再処理工場運転開始を2040年頃とするシナリオを採用しています。そして、順次軽水炉に取って代わるかたちで高速増殖炉を増やし、2100年過ぎには、原子力発電全部(5,800万kWeと仮定)を高速増殖炉に担わせるとの計画です。

報告書は、日本原子力研究開発機構などが1999年から進めてきた「高速増殖炉(FBR)サイクル実用化戦略調査」(FS)のフェーズ II(2001−2005年度)の最終報告書(2006年3月30日まとめ)を検討・評価し、2015年頃までの研究開発計画をとりまとめたものです。

原子力政策大綱 (pdf)(2005年10月閣議決定)は、「高速増殖炉サイクルの適切な実用化像と2050年頃からの商業ベースでの導入に至るまでの段階的な研究開発計画について2015年頃から国としての検討を行う」とし、そのために、国は「実用化戦略調査研究フェーズ II の成果を速やかに評価して、その後の研究開発の方針を提示する」べきだと述べています。

この任務を背負ったのが、科学技術・学術審議会の委員会です。2015年頃に国が行う検討に備えて、その時点までにやるべき研究開発の方針を示そういうわけです。委員会の報告書は、ナトリウム冷却炉、先進湿式法再処理、簡素化ペレット法燃料製造の組み合わせを、実用施設として実現性の可能性の高い「主概念」として選び出しています。そして、これまでの「幅広い戦略的調査」という方向性を変更し、今後2015年までの研究開発においては、この「主概念」を中心として実用化に集中した技術開発を行い、実証炉と燃料サイクル実証施設の概念設計をとりまとめるべきだと述べています。

以下、報告書の経緯、内容などを簡単にまとめました。

  1. 経緯
  2. 文部科学白書の戦略調査研究についての説明は?
  3. 報告書をまとめたのは?
  4. 『原子力立国計画』と比べると?
  5. 計画は予定通り進むか?
  6. 実証炉など実証プロセスの費用は誰が?
  7. 核拡散への影響は?
  8. 『高速増殖炉サイクルの研究開発方針について』(案)(2006年9月12日)抜粋
  9. 科学技術基本計画(3月28日)での位置づけは?
  10. 『原子力政策大綱』(2005年10月閣議決定)抜粋
  11. 高速増殖原型炉もんじゅ

参考

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経緯

1995年12月の高速増殖原型炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ火災事故の後高まる不信のなかで出された1996年1月の福島、新潟、福井の「3県知事提言」などを受けて、同年に開かれた原子力政策円卓会議において、高速増殖炉懇談会 の開催が提案された。翌97年に開かれた同懇談会の報告書『高速増殖炉研究開発の在り方』 は、次のように述べている。

「もんじゅ」はこれまで約5900億円の建設費と12年の建設期間をかけ、設計・建設段階で数多くの知見を蓄積してきました。・・・したがって、「もんじゅ」を使い、研究開発を続けることは必要なことと考えます。・・・・本懇談会は、将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢として、高速増殖炉の実用化の可能性を追求するために、その研究開発を進めることが妥当と考えます。

高速増殖炉(FBR)サイクルの実用化戦略調査研究」はこの結論に従って「高速増殖炉サイクルの適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画を2015 年頃に提示する」こと目的に日本原子力研究開発機構と電気事業者によって1999年に開始された。

略年表

1995年12月
もんじゅ事故
1996年1月
3県知事提言
1996年5-10月
第1期原子力政策円卓会議
1997年
高速増殖炉懇談会
1999-2000年度
フェーズ I
2001年
フェーズ II 開始
2006年3月
フェーズ II 最終報告書
2006年9月
『フェーズ II 最終報告書を受けて』(案)

参考

高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズ2最終報告書の概要 (pdf)

(2) 実用化戦略調査研究の経緯(p5)

【原子力政策円卓会議】
【原子力委員会『高速増殖炉懇談会』(1997年12月1日)】
将来のエネルギー源の一つの有力な選択肢として、高速増殖炉の実用化の可能性を技術的・社会的に追求するために、その研究開発を進めることが妥当。
実用化戦略調査研究の開始サイクル機構、電気事業者、電中研、原研等によるオールジャパン体制で、1999年7月より、高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究を開始
実用化戦略調査研究の目標:
高速増殖炉サイクルの適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画を2015年頃に提示する
【原子力長計】
(2000年11月24日)
・高速増殖炉サイクル技術が技術的な多様性を備えていることに着目し、選択の幅を持たせ研究開発に柔軟性を持たせることが重要。
サイクル機構において実施している「実用化戦略調査研究」等を引き続き推進する。
【原子力政策大綱】
(2005年10月11日)
・国は高速増殖炉サイクルの適切な実用化像と2050年頃からの商業ベースでの導入に至るまでの段階的な研究開発計画について2015年頃から国としての検討を行うことを念頭に、実用化戦略調査研究フェーズ II の成果を速やかに評価して、その後の研究開発の方針を提示する

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文部科学白書の戦略調査研究についての説明は?

平成15年度文部科学白書 > 第2部 第6章 第4節 3

(3) 高速増殖炉開発実用化戦略調査研究

 高速増殖炉サイクル技術の研究開発については,その技術の多様性に着目し,柔軟性を持った研究開発を行うことが重要です。核燃料サイクル開発機構では,平成11年7月から,高速増殖炉サイクル技術として適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を提示することを目的に,炉型選択,再処理法,燃料製造法など高速増殖炉サイクル技術に関する多様な選択肢について,電気事業者など関連する機関の協力を得つつ,「実用化戦略調査研究」が実施されています( 図2-6-7 )。平成13年度から17年度には,実用化のための候補の絞り込みを行っています。

図2-6-7 実用化戦略調査研究

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報告書をまとめたのは?

9月12日にまとめられた報告書 『高速増殖炉サイクルの研究開発方針について−「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズ II 最終報告書」を受けて−』(案) は、

科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会に設けられた 「原子力分野の研究開発に関する委員会」(主査=田中知・東京大学大学院工学系研究科教授)が、日本原子力研究開発機構と日本原子力発電株式会社による『高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズ2最終報告書』(pdf)(2006年3月30日まとめ)を検討・評価してまとめたもの。9月15日から意見を募集している(10月14日締め切り)。報告書の最終決定は、10月末の予定。

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『原子力立国計画』と比べると?

この報告書で想定しているシナリオは、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)電気事業分科会の原子力部会(部会長=田中知・東京大学大学院工学系研究科教授)が8月8日にまとめた報告書『原子力立国計画』 (pdf)の基本シナリオを早めたものとなっている。(ともに田中知教授がとりまとめの代表者となっている。教授は、原子力政策大綱(2005年10月閣議決定)の策定会議のメンバーでもある。)

資源エネルギー庁が2005年12月26日に総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)電気事業分科会原子力部会に提出した資料『今後の核燃料サイクル実用化のシナリオ(素案)』 (pdf)は、「FBRサイクルへの移行を着実に進める上で、現在の軽水炉による発電やFBR原型炉「もんじゅ」から商業ベースでのFBRサイクルへの移行のシナリオが明確になっていない」と指摘し、「国民や立地地域の理解の得るためには、現在の軽水炉による発電や原型炉「もんじゅ」の段階から、将来の商業ベースでのFBRサイクルの段階への移行のシナリオを国民に提示する必要があるのではないか」と述べ、「ポストもんじゅ」等の関連施設を2030年前後までに設置し、「2050年頃に商業ベースでのFBRの導入を開始し」「六ヶ所再処理工場の操業終了時頃(2045年頃)に第二再処理工場の操業を開始」するとのシナリオを提案していた。

原子力立国計画 67ページの図3.3.1「「基本シナリオ」のイメージ」は、この資料5ページの3.「想定するシナリオ〜「基本シナリオ」のイメージ」と同じものだが、立国計画の方では、枠外に、「FBR実証炉(2025年頃)」、「FBR商業炉2050年前」と書き入れて、導入時期を早めている。なお、これらの図は、第二再処理工場では、軽水炉使用済燃料、軽水炉MOX使用済燃料、高速増殖炉使用済燃料の3種を再処理することを示している。

加速化の流れ
 実証炉運転開始実用炉第2再処理工場
原子力政策大綱 2050年頃商業ベース導入2010年頃検討開始
2005年資源エネ庁2030年2050年頃商業ベース導入2045年頃操業開始
原子力立国計画2025年2050年前商業ベース導入2045年頃運転開始
『方針について』2025年2045年頃運転開始2040年運転開始

*「商業ベース導入」と「実用炉運転開始」とは同じ意味で使われている。

『原子力立国計画』基本シナリオ p67の図 別窓

『原子力立国計画』基本シナリオ

参考

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計画は予定通り進むか?

「長計の見果てぬ夢」(核情報)を見ても明らかな通り、計画が早められたからといって、それが予定通り運ぶわけではない。

1956年の第1回『原子力の研究、開発および利用に関する長期計画』(長計)で「わが国の国情に最も適合」したもとのされた高速増殖炉実用化の時期は、1961年の第2回長計で、十数年先の1970年代後半以降だったものが、回を経るごとに、二十数年先、三十数年先と次第に遠ざかり、2005年の原子力政策大綱では、45年先の2050年頃となっていた。

5年程度数字をいじくったところで、現実が変わるわけではない。このような数字の変更に「原子力村」内部での元気付け以上の意味があるかどうか。

2006年5月末、経済産業省が「新・国家エネルギー戦略」の中の「原子力立国計画」の項で「実証炉及び関連サイクル実証施設の2025年頃までの実現を目指すこととし、商業炉を2050年よりも前を目指して開発する。第二再処理工場は、六ヶ所再処理工場の操業終了時頃(2045年頃)の操業開始を目指して、必要な技術開発を進める。」とすることが明らかになった際、毎日新聞は次のように報じている。

これまで実用化に向けた後継炉は30年ごろ建設としていたが、5年前倒しした形。高速増殖炉の実用化に技術的、経済的な見通しが立たない中での決定で、専門家からは「前倒しに意味があるのか」との批判も出ている。 (毎日新聞 2006年05月29日11時37分)

そもそも、高速増殖炉サイクルの導入がそれほどうまく行くと考えているのなら、六ヶ所再処理工場を急いで動かして、分離したプルトニウムを軽水炉で燃やすなどというもったいないことをしないで、高速増殖炉の導入時期まで再処理を延期して、分離されたプルトニウムが高速増殖炉で使えるようにすればいい。

ただし、予算の確保は着々と進められている。

  • *日本原子力研究開発機構見積もり(pdf)(p160)
  • 参考

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    実証炉など実証プロセスの費用は誰が?

    軽水炉発電相当分は民間が、越える分は国が。

    『原子力立国計画』 (pdf)は次のように述べている。

    軽水炉発電相当分のコストとリスクは、民間事業者が負担することを原則とするのが適切である。それを超えるコストとリスクについては、(i)電力自由化の中で電気事業者のとれるリスクは限定される中で、この段階のFBRは未だ世界的にも実用化の実績に乏しい技術であり、リスクが極めて高いこと、(ii)世界的な核不拡散強化の流れの中で、商業ベースの判断を超えた政策的要請が高まることが予想されること、から引き続き、国の積極的関与が不可欠であること、を勘案して、国が相当程度の負担をするのが適切である。特に、建設費が当初予定額を大幅に上回るリスクや当初想定されなかった事態により操業が遅延・停止するリスク等を民間だけで負担するには限界があることに留意が必要である。

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    核拡散への影響は?

    『高速増殖炉サイクルの研究開発方針について』(案)では、高速増殖炉計画が進んだ場合にそれが核拡散問題について与える影響について分析はなく、単に次のように述べている程度。

    p17

    核兵器の原料ともなり得るプルトニウムを利用しているが、プルトニウムは常にウランやマイナーアクチニド等と混合された状態で取り扱うことにすれば、これにより燃料の放射線量が高くなり、テロリストなど、盗取を試みる可能性のある者の接近を阻害することができるなど、高い核拡散抵抗性を実現することができる。

    p21−23

    燃料サイクル施設においては、ウラン、プルトニウム、ネプツニウムを低除染で一括回収し、さらに高レベル廃液より回収したアメリシウム、キュリウムを混合するなど、プルトニウムを常にウランやMAと混合した状態で取り扱う工程としていること、またMAの高い放射線により接近性が制限されることから、核拡散抵抗性は現在の軽水炉サイクルよりも向上することになる。

    現在の軽水炉サイクルは核拡散抵抗性が低いことを認めているが、だから無理矢理六ヶ所を動かすのは止めようとの提案はしていない。

    高速増殖炉燃料サイクルにおいては、放射能が強いから、人がが近づけない、つまり核物質自体が「自己防衛的」になると言いたげだが、エネルギー省のE・D・コリンズ博士は、米国が開発しようとしているUREX+1aと呼ばれる新しい再処理方法でプルトニウムと他の超ウラン元素を一緒に取り出しても「自己防衛的」にはならないと述べている。

    実質的な意味を持つまで「自己防衛」力、つまりは放射能を高めると、今度は、「燃料製造・輸送のコストが相当上がってしまう」とコリンズ博士は指摘している。

    また、エネルギー省先進燃料サイクル・イニシアチブ・ディレクターのウイリアム・マグウッドは、2005年3月15日 下院エネルギー・水予算小委員会で次のように述べている。

    プルトニウムを他のいくつかのものと合わせて分離するこの化学技術を、核拡散抵抗性のある形で、かつ、経済的に実行可能な形で活用することができるかどうか我々は確信が持てない。

    参考

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    『高速増殖炉サイクルの研究開発方針について』(案)(2006年9月12日)抜粋

    ●報告書の性格は?

    p1

    高速増殖炉サイクル技術としては、これまで多くの概念が提案されています。このため、日本原子力研究開発機構と日本原子力発電株式会社は、1999年より、高速増殖炉サイクルの適切な実用化像とそこに至るための研究開発計画を2015 年頃に提示することを目的に、「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究」を開始し、多様な選択肢について調査研究が行われてきました。そして、本年3月30日、「高速増殖炉サイクルの実用化戦略調査研究フェーズ II 最終報告書」を取りまとめ、公表したところです。これに関し原子力政策大綱(2005年10月11日原子力委員会決定)は、「国は、(中略)実用化戦力調査研究フェーズ II の成果を速やかに評価して、その後の研究開発の方針を提示する」としています。

    当委員会(文部科学省科学技術・学術審議会研究開発・評価分科会原子力分野の研究開発に関する委員会)は、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の進め方について調査審議をいたしました。本報告書は、当委員会における検討結果を踏まえ、これまでの研究開発成果の評価と2015 年頃までの研究開発計画をとりまとめたものです。・・・

    ●軽水炉から高速増殖炉への移行スケジュールは?

    p17

    高速増殖炉サイクルの導入効果について、2050年頃から高速増殖炉を商業ベースで導入し、基幹電源として軽水炉(寿命60年と想定)に置き換わって順次建設(リプレース)することを仮定して、最終的には総発電電力量の30〜40%程度という現在の水準程度(5,800万kWeと仮定)を担うとして計算した場合・・・2100年過ぎには、発電に必要な核燃料の海外からの輸入が不要となる(原子力発電におけるエネルギー自給の確立)

    参考

    ●実現性が高いと考えられている実用システムは?

    p21

    これまでの研究開発成果を踏まえると、現在の知見で実用施設として実現性が最も高いと考えられる実用システム概念は、次のようなものであると考える。5つの開発目標に対応して設定した設計要求は、表総−3−3のとおりである。なお、軽水炉サイクルから高速増殖炉サイクルの移行期間(高速増殖炉サイクル導入期:軽水炉と高速増殖炉が並存して運転されている期間)は、便宜上2045 年から2104 年までの60 年間と想定している。

    1. 発電施設(原子炉)(図総−3−3参照)
      • 炉型: ナトリウム冷却高速増殖炉
      • 燃料: マイナーアクチニド(MA)含有混合酸化物(MOX)燃料
      • (低除染TRU 燃料)
      • 電気出力: 150 万kWe(ツインプラント:150 万kWe ×2基)
    2. 燃料サイクル施設(再処理施設、燃料製造施設)(図総−3−4参照)
      • 再処理: 先進湿式法再処理
      • 燃料製造: 簡素化ペレット法

    総論 高速増殖炉サイクルの実用化に向けて(pdf)p24

    表総−3−5 選択された「主概念」と「副概念」
    原子炉再処理燃料製造
    主概念ナトリウム冷却炉
    (MOX燃料)
    先進湿式法 簡素化ペレット法
    副概念ナトリウム冷却炉
    (金属燃料)
    金属電解法射出鋳造法
    • *主概念:現在の知見で実用施設として実現性が最も高いと考えられる実用システム概念であり、今後研究開発を特に進めるべきもの
    • *副概念:現在の知見で実用施設として実現性が認められるが、社会的な視点や技術的な視点から比較的不確実性の残る実用システム概念

    ●主概念の実現性の程度は?

    p23

    現在の知見では実現性が最も高いと考えられるとはいえ、革新的な技術の採用を前提としていること、工学的規模での実証が必要であること、また、国内外におけるエネルギー需給構造、地球温暖化対策の考慮など、今後の社会環境の変化に柔軟な対応をとる必要があることなどから、今後の研究開発結果などを踏まえ、適宜評価を行って見直すべきである。

    p25

    [ナトリウム冷却炉・金属電解法・射出鋳造法は]「主概念」と比較した場合、社会的な視点や技術的な視点から不確実性がある。このため、「副概念」とし、高速増殖炉サイクルの基盤的な研究開発として取り組むこととする。

    ●2015年までの研究開発の目的は?

    p25

    高速増殖炉サイクルの適切な実用化像と2050 年頃からの商業ベースでの導入に至るまでの段階的な研究開発計画について、2015 年頃から国として検討を行うとされている。この検討の際に必要となる科学技術的な知見を提供することが、今後2015 年までの研究開発の目的である。

    ●想定されたロードマップは?

    p27

    ロードマップについては現在複数の提案がなされているが、技術的な知見を前倒しで蓄積して行くことの重要性、研究開発資源の効率的利用などを考慮し、本委員会は図総−3−6のロードマップを想定した。本ロードマップは、2025 年に実証炉を運転開始し、2045年頃に実用炉を運転開始できるよう、技術的な知見を整えることを目指すものとなっている。

    総論 高速増殖炉サイクルの実用化に向けて(pdf)p26

    図総-3-6 高速増殖炉サイクルの実用化を目指した研究開発ロードマップ 別窓

    図総-3-6 高速増殖炉サイクルの実用化を目指した研究開発ロードマップ

    ●GNEPとの関係は?

    特に、米国が2006 年2月に提唱した「国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)」構想に盛り込まれている高速炉サイクル技術分野の研究開発に対しては、共通点及び相違点を明確にしていく必要はあるが、積極的、また前述の基本的な考え方に沿って戦略的に対応することが適切であると考える。

    参考

    GNEP協力の流れ

    2月6日
    米国GNEP発表
    2月下旬
    第1回日米政府協議
    5月9日
    科技相・原子力委員長、米DOE長官と会談
    8月21日
    第2回日米政府協議
    9月11日
    米エネルギー省(DOE)の提案募集に対し、日本原子力研究開発機構など11者、関心意思を表明

    ●業界との協力は?

    2015 年までの研究開発の終了を待つのではなく、常に研究開発側と導入者側とで円滑な移行に向けた意見交換を行うことが重要であると考える。既に、経済産業省、文部科学省、電気事業者、製造業者、原子力機構により「高速増殖炉サイクル実証プロセスへの円滑移行に関する五者協議会」が設置されているが、このような場を通じ、今後の研究開発に対する要求を随時反映させるとともに、軽水炉サイクルから高速増殖炉サイクルへの移行シナリオ、国際協力のあり方、開発スケジュールと実証ステップのあり方などを検討することなどが重要であると考える。

    参考:

    「高速増殖炉(FBR)サイクル実証プロセスへの円滑移行に関する5者協議会」の流れ

    2006年
    7月13日
    協議会第1回会合
    8月29日
    協議会内「高速増殖炉(FBR)サイクル実証プロセス研究会」第1回会合
    9月1日
    協議会第2回会合
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    科学技術基本計画(3月28日)での位置づけは?

    「高速増殖炉サイクル技術(国家基幹技術)」について (pdf)(2006年5月26日)文部科学省は次のように説明。

    平成18年3月に「第3期科学技術基本計画」が策定され、また、「高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究フェーズ II 報告書((独)日本原子力研究開発機構・日本原子力発電(株))」が取りまとめられたことを踏まえ、特に「国家基幹技術」としての高速増殖炉サイクル技術の開始年度を平成18年度からとする。全体のスケジュール概要は、【別紙2、3】参照。

    (3)投入資金

    1. 平成18年度予算額:241億円(平成17年度予算額 246億円)
      • 高速増殖炉「もんじゅ」(開発実証関係) 84億円(64億円)
      • 高速実験炉「常陽」 29億円(38億円)
      • FBRサイクル実用化戦略調査研究 6億円(30億円)
      • MOX燃料製造技術開発 46億円(54億円)
      • 高速増殖炉サイクル技術関連研究開発 48億円(60億円)
      • 原子力システム研究開発(主要概念関係)30億円( 0億円)
    2. 総事業費:約2100億円(第3期科学技術基本計画中(平成18〜22 年度))

    年度別推計については、【別紙4】参照。

    参考

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    『原子力政策大綱』(2005年10月閣議決定)(pdf) 抜粋

    ●商業ベース導入の時期

    p33

    高速増殖炉については、軽水炉核燃料サイクル事業の進捗や「もんじゅ」等の成果に基づいた実用化への取組を踏まえつつ、ウラン需給の動向等を勘案し、経済性等の諸条件が整うことを前提に、2050年頃から商業ベースでの導入を目指す。なお、導入条件が整う時期が前後することも予想されるが、これが整うのが遅れる場合には、これが整うまで改良型軽水炉の導入を継続する。

    ●もんじゅ

    p44

    高速増殖炉サイクル技術は、長期的なエネルギー安定供給や放射性廃棄物の潜在的有害度の低減に貢献できる可能性を有することから、これまでの経験からの教訓を十分に踏まえつつ、その実用化に向けた研究開発を、日本原子力研究開発機構を中核として着実に推進するべきである。具体的には、研究開発の場の中核と位置付けられる「もんじゅ」の運転を早期に再開し、10年程度以内を目途に「発電プラントとしての信頼性の実証」と「運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立」という所期の目的を達成することに優先して取り組むべきである。その後、「もんじゅ」はその発生する高速中性子を研究開発に提供できることを踏まえ、燃料製造及び再処理技術開発活動と連携して、高速増殖炉の実用化に向けた研究開発等の場として活用・利用することが期待される。その具体的な活動の内容については、その段階までの運転実績や「実用化戦略調査研究」の成果を評価しつつ計画されるべきである。これらの活動には国際協力を活用することが重要であるから、「もんじゅ」及びその周辺施設を国際的な研究開発協力の拠点として整備し、国内外に開かれた研究開発を実施し、その成果を国内外に発信していくべきである。

    ●実用化戦略調査研究・海外との協力

    p44-45

    また、日本原子力研究開発機構は、「もんじゅ」等の成果も踏まえ、高速増殖炉サイクルの適切な実用化像とそこに至るまでの研究開発計画を2015年頃に提示することを目的に、電気事業者とともに、電力中央研究所、製造事業者、大学等の協力を得つつ「実用化戦略調査研究」を実施している。その途中段階での取りまとめであるフェーズ II の成果は2005年度末に取りまとめられ、国がその成果を評価して方針を提示することとしており、その後もその方針に沿って研究開発を的確に進めるべきである。その際、第四世代原子力システムに関する国際フォーラムにおけるこの分野の成果を取り入れることも重要である。

    また、日本原子力研究開発機構は、「常陽」を始めとする国内外の研究開発施設を活用し、海外の優れた研究者の参加を求めて、高速増殖炉サイクル技術の裾野の広い研究開発も行うものとする。電力中央研究所、大学、製造事業者等においても、これらに連携して研究開発を実施することを期待する。

    ●2015年までの研究・実用化戦略調査研究

    p.45

    国は、これらの進捗状況等を適宜評価して、柔軟性のある戦略的な研究開発の方針を国民に提示していくべきである。特に、「実用化戦略調査研究」の取りまとめを受け、高速増殖炉サイクルの適切な実用化像と2050 年頃からの商業ベースでの導入に至るまでの段階的な研究開発計画について2015年頃から国としての検討を行うことを念頭に、実用化戦略調査研究フェーズ II の成果を速やかに評価して、その後の研究開発の方針を提示するものとする。なお、実用化に向けた次の段階の取組に位置付けられるべき実証炉については、これらの研究開発の過程で得られる種々の成果等を十分に評価した上で、具体的計画の決定を行うことが適切である。

    ●第2再処理工場

    p38

    使用済燃料は、当面は、利用可能になる再処理能力の範囲で再処理を行うこととし、これを超えて発生するものは中間貯蔵することとする。中間貯蔵された使用済燃料及びプルサーマルに伴って発生する軽水炉使用済MOX燃料の処理の方策は、六ヶ所再処理工場の運転実績、高速増殖炉及び再処理技術に関する研究開発の進捗状況、核不拡散を巡る国際的な動向等を踏まえて2010年頃から検討を開始する。この検討は使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用するという基本的方針を踏まえ、柔軟性にも配慮して進めるものとし、その結果を踏まえて建設が進められるその処理のための施設の操業が六ヶ所再処理工場の操業終了に十分に間に合う時期までに結論を得ることとする。

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    高速増殖原型炉もんじゅ

    所在地
    福井県敦賀市
    熱出力
    71万4000kW
    電気出力
    28万kW
    建設費
    5900億円
    停止中維持費
    年間約100億円
    総費用
    2005年度末までに約8240億円

    もんじゅ関連略年表

    1967年10月
    動力炉・核燃料開発事業団設立
    1983年5月
    原子炉設置許可
    1985年10月
    着工
    1985年9月
    福井地裁で住民ら、行政訴訟及び民事訴訟
    1994年4月
    臨界
    1995年8月
    初送電
    1995年12月
    ナトリウム漏れ火災事故
    1998年10月
    核燃料サイクル機構設立(旧動燃)
    2000年3月
    第一審(福井地裁)判決 住民側敗訴
    2001年3月
    核燃料サイクル機構、改造工事のための原子炉設置変更許可申請
    2002年12月
    経済産業省、原子炉設置変更許可
    2003年1月
    名古屋高裁金沢支部判決 住民側勝訴
    2003年3月
    住民側、民事訴訟取り下。国の設置許可無効を求める行政訴訟1本化
    2005年5月
    最高裁判決 住民側敗訴
    2005年2月
    福井県知事及び敦賀市長、改造工事計画について、事前了解
    2005年9月1日
    改造工事着工(17ヶ月の予定)
    2005年10月
    日本原子力研究開発機構設立(旧サイクル機構+日本原研)
    2010年5月6日
    運転再開 40%出力プラント確認試験に向けて
    2010年5月8日
    臨界確認。
    2010年8月26日
    炉内中継装置(重さ3.3トン)が原子炉容器内に落下
    2011年6月24日
    炉内中継装置引き抜き完了

    参考


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