米国ACT誌巻頭コラム
北朝鮮とシリア砂漠の出来事(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2008年5月号
ダリル・キンボール
イスラエル空軍のジェット機がアルキバルの近くの辺鄙な場所の施設を爆撃してから7か月後の4月24日、米国は、このサイトには北朝鮮の援助を得て建設中の軍事プログラム用原子炉があったとするインテリジェンス情報を公表した。この見解が出てきたのは、ピョンヤンとワシントンが北朝鮮の核プログラムの申告に関する暫定的な合意に至った矢先のことである。この申告問題は北朝鮮の検証可能な形の非核化を目指した交渉を行き詰まらせてきたものである。
シリア・北朝鮮の核コネクションの指摘は、ピョンヤンの過去の拡散行為とダマスカスの意図について新たな困った問題を提起するものである。これは、「国際原子力機関(IAEA)」よって徹底的に調査されなければならない。しかし、だからと言って、これによって、北朝鮮の核兵器プログラムの解体をもたらした――そして、限界があるとしても、北朝鮮のさらなる拡散行動を停止させるための重要な道具となりうる――進行中の外交的プロセスを脱線させしまうのは大へんな間違いである。
昨年、六ヶ国協議は、ついに重要な結果をもたらした。2007年7月、IAEAは、北朝鮮はヨンビョン原子炉とプルトニウム分離工場の運転を停止したことを確認した。10月以来、米国の担当者らが現場にいて北朝鮮の科学者らとこれらの施設の無力化に当たっている。
現在、暫定的な取引の下で、北朝鮮は、その核兵器プログラムの申告をすることと、その拡散行動及びウラン濃縮プログラム疑惑についての米国の懸念を認知することとに同意した。数週間内に、米国の専門家らが北朝鮮の申告の検証プロセスを始めるかもしれない。これと引き換えに、ブッシュ政権は、テロ支援国家リストからピョンヤンを外し、いくつかの制裁措置を解除するよう努力すると約束した。
シリア問題の発覚によってワシントンが悪い行いに報酬を与えているかに見えると心配する向きもある。だが、米国は、北朝鮮の核兵器、核物質、ウラン濃縮関連アイテムが出回らないようにし、その科学者が死をもたらさない活動に携わるようにするという優先課題に焦点を当て続けるべきである。
2002年に同じような状況に直面した際、ブッシュ・チームは計算を間違えた。暫定的なインテリジェンスに基づき、ワシントンは、以前の非核化の約束を破ってウラン濃縮プログラムを進めていると北朝鮮を非難した。ジョージ・W・ブッシュ大統領は不快感を示すために、北朝鮮への重油の輸送を止めた。それによって北朝鮮がIAEAの査察官を追い出し、それまでの8年間凍結されていたプルトニウムの生産を再開させるかもしれないことが明らかだったにも関わらずである。
ピョンヤンのプルトニウム保有量は、核爆弾1−2個分から約10個分に増えた。そして、六ヶ国協議の遅延と米国の2006年の金融制裁の後、ピョンヤンは、連続ミサイル実験を実施し、核実験を行った。状況が幾分緩和したのは、2007年2月に、非核化と関係正常化を達成するための一連の「行動に対する行動」的措置の概要を示した合意が得られてからのことである。
六ヶ国協議のプロセスは問題もあるが、北朝鮮の核拡散行動を停止させる上で貴重な手段を提供するという点でもきわめて重要なものである。2007年9月6日のイスラエルによるシリア攻撃の後、米国は、2007年10月の六ヶ国ステートメントにおいて、北朝鮮が「核物質、技術あるいはノウハウを委譲しないとのコミットメント」を再確認することを要求し、これを得ることに成功した。
ブッシュは、9月20日、北朝鮮とシリアの関係に関する報道について質問された際にこう述べている。「彼らが拡散行動をとっているとして、彼らが六ヶ国協議を成功させたいと望むなら、彼らが当然のこととしてその拡散をやめることを我々は期待する。」米国の指導者や同盟国は、この要求を粘り強い外交によって追及すべきである。
実際、北朝鮮・シリア間の核あるいはミサイルの協力があれば、それは、2006年10月の国連安全保障理事会決議1718に違反する。決議は、各国がこれらのアイテムの北朝鮮との貿易を停止することを定めている。もし、シリアが実際原子炉を建設していたとすれば、それはまた、保障措置上の義務の明らかな違反である。なぜなら、シリアは、そのプロジェクトについてIAEAに知らせていないからである。
イスラエルによる9月の攻撃の後、施設に加えて、このような援助は、中止されたようである。しかし、イスラエルの行動は、IAEAが原子炉の存在についての物理的証拠を見つけるのをずっと難しくしてしまっただろう。シリアは、原子炉の存在を否定している。攻撃は、また、ディモナにあるイスラエルの秘密軍事炉に対する将来の攻撃のリスクを高めるものでもある。
シリアの核関連活動についてのイスラエルの懸念は理解のできるものである。しかし、リスクのある違法な空爆を実施するのではなく、イスラエル、あるいは、米国は、アルキバルの原子炉についての情報を使って、IAEAあるいは安保理に対し、施設――及び、シリアにおける他の潜在的秘密原子力サイト――についての査察及び解体を要求するよう要請すべきだった。
政策立案者らは、シリアの施設についてのインテリジェンスの公表を利用して、北朝鮮に対し、同国が拡散行動をやめたことを検証するのに役立つ措置を受け入れるようにとの圧力を高めるべきである――検証可能な北朝鮮の非核化のプロセスを遅延あるいは脱線させるための口実としてこれを使うのではなく。