核情報

2008.1─2

米国の核政策の転換


米国ACT誌巻頭コラム

米国の核政策の転換 (原文)『アームズ・コントロール・トゥデー』2008年1−2月号

ダリル・キンボール

ワシントンにおいて変化をもたらすというのは、とくに核兵器政策の場合、非常に難しく、大統領の強いリーダーシップと超党派の協力的多数派の存在がなければ不可能である。しかし、最近の議会の行動や傾向は、ホワイト・ハウスに次に入る者に、時代遅れになってしまっている米国の核兵器及び軍備管理政策に関して大幅な変革を始める上で、滅多にない機会を与えるだろう。

議会は、2007年12月、[既存の核弾頭に替える]「取り換え用」核弾頭の製造と、それに役立つ新たなプルトニウム・ピット製造施設を求めるブッシュ政権の愚かな計画を拒絶した。

  • [注:「取り換え用」核弾頭=「信頼性のある取り換え用核弾頭 ( RRW )」: 単純な構造の弾頭を作って既存のすべての核弾頭の代わりにこのRRWを使おうという案。政府は核実験をしないでRRWが開発可能と主張]

ジョージ・W・ブッシュ大統領は、これらのプロジェクトを復活させようと試み、核兵器の数はこれ以上減らせないところまで来ていると主張するかもしれないが、新たな核兵器を製造するのではなく、核兵器の数をもっと減らすことについての支持が高まっており、これを正当化する安全保障面での強い理由もある。

ピーター・ヴィスクロスキー(民主・インディアナ州)及びデイビッド・ホブソン(共和・オハイオ州)両下院議員やバイロン・ドーガン(民主・ニュー・ダコタ州)上院議員らを始めとする予算委員会メンバーらは、RRWを求めるブッシュ政権の議論を退けて、この計画のための「国家核安全保障局(NNSA)」用予算8900万ドルの提供を拒否した。ブッシュ政権は、2007年7月の報告書において、RRWプログラムの遅延は「既存の核兵器の認証のために地下核実験を再開しなければならなくなる可能性を高める」と主張した。

8月に出された書簡でヴィスクロスキーとホブソンは、「ブッシュ政権がこのような主張をするのは無責任だ」と反論した。2人は、事実に基づき、政府による「核弾頭の性能を検証するために核実験の再開が必要だとする議会での証言記録や議会への報告書は存在しない」と指摘した。実際、核弾頭の老朽化に関する最新の研究は、プルトニウムが80年以上、重大な劣化を起こさないことを示している。

トーマス・ダゴスティノ NNSA局長は、「核実験の必要性についての我々の見解に関して・・・誤解があることについて・・・懸念」していると認めた。12月に議会に提出した書簡において、彼は次のように書いている。「次の点についてはっきりさせておきたいと思います。今日の保有核は安全性と信頼性を有し、今日まで、配備後の核実験を必要としたことはないし、また、核実験は現在、必要になると予測もされていませんし、計画もされていません。」

要するに、現存の核兵器維持管理プログラムは機能しているのである。通常爆薬や核関連以外の部品の定期的な検査と改善によって、核兵器研究所は、1996年「包括的核実験禁止条約(CTBT)」の下で、現在よりも少量の核兵器を、信頼できる形で維持することができる。次期大統領の政権において、上院はCTBTを見直し、承認すべきである。

ブッシュの核政策についての超党派の不満を反映して、議会は、また、米国の核兵器の役割と量についての徹底的見直しを2009年末までに行うよう政府に命じた。次期大統領は、この機会を無駄にしてはならない。

以前のブッシュ・クリントン両政権の核態勢の見直しは、情けないほど不十分なものだった。どちらも、冷戦時代の攻撃目標計画や政策を僅かしか変えないものだった。その結果、配備核の数は減ったが、その威力は依然として巨大なままである。1994年の核態勢の見直しは、配備戦略核を3500発から2500発に減らすことを承認した。ブッシュの2001年の見直しは、配備核弾頭を1700−2200発にすることを定めた。

ブッシュ政権は、また、過去の政策と袂を分かち、米国の核兵器が、新たな条約の規定するタイムテーブルや検証体制に支配されるようなことがあってはならないとの立場をとった。このように米国の政策の自由度に力点を置いた結果、将来予測が難しくなり、ロシアは、自国が、危険に曝されているとの意識を強めた。これは、さまざまな軍備関連問題に関する米ロの摩擦をさらに高めることになった。

核兵器量のさらなる低減を追求し、新たな核弾頭の製造を完全に停止すると共に、CTBTを承認するなどの姿勢をワシントンが示そうとしなかった結果、核廃絶に向けて具体的措置を講じるという「核拡散防止条約(NPT)」の下での義務を核兵器国が果たすつもりかどうかについて、信頼がさらに失われた。

これらの政策は変えることができるし、変えなければならない。現在の米国の核態勢は、9・11後の脅威環境を反映していない。今や、核兵器は、安全保障上、プラス面よりマイナス面の方が大きい。2200発はもちろんのこと、数百発以上の核弾頭の保有を正当化する脅威シナリオなど考えられないということを次期政権は認識しなければならない。新たな核兵器は、不必要であり、また、挑発的である。米国は、テロリストや非核兵器国を核兵器で脅すのではなく、彼らの手に核兵器用物質や技術が渡らないようにすることの方にこそ全力を尽くすべきである。

次期大統領は、新しい条約について早期に交渉を開始しなければならない。両国の核兵器及びミサイルを現状よりずっと大幅に、そして検証可能な形で削減すること決める条約を、「戦略核兵器削減条約(START)」が2009年に失効する前に結ばなければならない。 [注:1991年締結の同条約には検証体制についての規定がある。]リチャード・ルーガー(共和・インディアナ州)上院議員が2007年10月に述べているとおり、「政府は、米ロ関係が、法的拘束力を持つ条約の必要性を超えたものになったとする人々の主張を拒絶しなければならない。」

このように、次期大統領にとって、核兵器政策に対する新しいアプローチをとり、核拡散防止の努力の強化や核兵器の脅威除去ために他の国々の支持を勝ち取るのに必要な米国の世界的リーダーシップを回復することは可能である。


核情報ホーム | 連絡先 | ©2008 Kakujoho