核情報

2007.10

ミサイル及びミサイル防衛


米国ACT誌巻頭コラム

ミサイル及びミサイル防衛(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2007年10月号

ダリル・キンボール

20年前、ロナルド・レーガン大統領は、核搭載弾道ミサイル及び「相互確証破壊」のリスクの低減のための単純だが大胆なアイデアを提唱した。1986年10月のソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフとのレイキャビック・サミットにおいて、レーガンは、戦略ミサイル防衛の研究開発を行う一方、両国が10年以内にすべての攻撃弾道ミサイルを破棄することを提案した。

ゴルバチョフは、レーガンの提案を拒否したが、この話し合いは、中距離核戦力全廃(INF)条約の舞台を整えることになった。条約によって、射程500kmから5500kmの地上配備ミサイルがすべて廃棄された。そして、冷戦の敵対関係が緩和した。

レイキャビック、そしてINF条約以来、米国の指導者達は、レーガンのミサイル防衛の夢を追い続けるために1000億ドル以上を費やしてきた。しかし、攻撃的弾道ミサイルを廃棄するというレーガンのゴールは見失ってしまった。何十年もの研究によって、現在の米国の戦略ミサイル防衛プログラムは、良く言っても、単純な対抗手段も備えていない少数の長距離弾道ミサイルに対してのみ初歩的な防衛を提供するかもしれないという程度であることを示している。しかし、この控えめな能力でさえ、未だ実証されてはいない。

ミサイル防衛が開発され、現実的な運用テストをパスしたとしても、敵は、いつでも、そのシステムを圧倒するのに十分な攻撃的弾道ミサイルを製造するかたちで対応することができる。この問題を理解したレーガン政権が関与して、1987年に「ミサイル技術管理体制(MTCR)」が作られた。核・化学・生物弾頭を搭載できるミサイルに関連した技術の拡散を防止することを目的としたものである。MTCRは、加盟国が34ヶ国に増え、幾つかの国々――アルゼンチン、ブラジル、エジプト、イラク、南アフリカ、韓国、シリア、台湾など――でのミサイル計画の抑制や停止に貢献している。

今日、32ヶ国が弾道ミサイルを保有しているが、1000kmを超える射程のミサイルを製造あるいはその飛翔実験をした国は10ヶ国だけである。現在のところ、自国の領土から弾道ミサイルを発射して米国を攻撃する能力を実証している国は、中国とロシアの2ヶ国だけである。しかし、MTCR加盟国やインド、イラン、北朝鮮、パキスタンなどの他の国々がゆっくりではあるが着実にそのミサイル能力を拡大・改善し、これらを高い威信を持つ兵器とみなしている限り、MTCRの自発的ガイドラインの有効性は限られている。

これはすべて、ミサイル管理に対するもっと妥当なアプローチの必要性を示している。ミサイル防衛信奉者らの願望的思考に反して、ミサイル防衛がミサイルの増大を思いとどまらせることを示す証拠はない。イランと北朝鮮は、米国の戦略ミサイル防衛計画にもかかわらずミサイルの製造・実験を続けてきている。それどころか、ミサイル防衛は、攻撃的ミサイルの製造の増大に拍車をかけることになるだろう。例えば、米国によるヨーロッパ用ミサイル防衛計画が自国の戦略的安全保障を脅かすことになるかもしれないとのロシアの懸念は、ミサイルのさらなる削減の遅延や、INF条約からの脱退をもたらす恐れがある。

どうすべきか。まず、米国とロシアは、共同してもっと真剣に取り組むべきである。ミサイル防衛についての懸念について話し合い、技術的代替手段について検討し、もっと大幅な攻撃的ミサイル戦力削減を達成するためである。ミサイル防衛についてこれ以上摩擦が起きれば、高度な警戒態勢を永続的なものにし、すでに大幅に遅れている「共同データ・交換センター」構想を危うくするだろう。このセンターは、偶発的あるいは誤解による核攻撃を避けるために役立てることを意図したものである。

第二に、論争を呼んでいる効果の怪しい高価な戦略ミサイル防衛を追求するのではなく、短・中距離のミサイルの脅威対処するためのシステムに米国の研究・開発の焦点を当てるべきである。このようなミサイルは、数も多く、脅威の緊急性も高く、また、防衛も比較容易なものである。ただし、これらのシステムでさえ、防衛 vs 攻撃のミサイル競争の不安定化をもたらさないように注意して追求しなければならない。

第三に、ワシントンは、他の国々と協力して、2002年「弾道ミサイル拡散防止国際行動規範」によって透明性と対話を増大させるために積極的に取り組まなければならない。米国と他の125ヶ国が規範を支持しているが、ワシントンや他の国々が本気で実施していないこと、そして、インド、イラン、北朝鮮、パキスタンなどのミサイル保有国が参加していないことなどのために成果はあまり上がっていない。規範は、各国に対し、ミサイルの所有状態及び実験について情報を交換すること、その弾道ミサイル計画に関して自己抑制することを義務づけおり、不安定化の要素の最も大きなタイプのミサイルに関して、一連の拘束力のある制限を設けるための青写真となりうるものである。

長距離弾道ミサイルだけでなく、巡航ミサイルにも高い優先順位をおくべきである。これまでのところ、巡航ミサイルはごく少数の国しか配備していない。しかし、この状態は、フランス、インド、ロシア、英国などが高度な巡航ミサイルを、利潤や影響力拡大の目的で他国に輸出していくなかで、まもなく変わってくるかもしれない。

大国がその弾道ミサイルを近代化し、アジアや中東でミサイル軍拡競争が進んでいるなかで、戦略的ミサイル防衛システムは、押し迫る嵐を目前にした穴だらけの傘以上のものではなくなっている。さらなるミサイル拡散の危険性と戦略的ミサイル防衛の限界を考えれば、ミサイル所有の価値を下げ、最も危険な攻撃ミサイルのない世界に向けて進むために、今までより強力な新しいミサイル管理体制と相当の新しい外交努力が必要である。

参考


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