核情報

2007.7.12

ACT: ミサイル防衛 衝突コース


米国ACT誌巻頭コラム

ミサイル防衛 衝突コース(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2007年7−8月号

ダリル・キンボール

ジョージ・W・ブッシュ大統領が5年前、1972年の米ソ弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から脱退した際、大統領は、「条約から脱退するという私の決定は、我々の新しい関係も、ロシアの安全保障も、決して脅かしはしない」と主張した。現在、ポーランドに陸上配備の迎撃ミサイルを10基、チェコ共和国に新型レーダーを配備するというブッシュの最新の提案は、米国の攻撃的及び防衛的戦略能力の増大に関するクレムリンの不安を著しく高めている。

旧ワルシャワ条約機構所属2ヶ国でのミサイル防衛関係配備に対するウラジミール・プーチン大統領の反応は、敵対的で、逆効果をもたらしている。大統領は、中距離核戦力全廃(INF)条約から脱退する、これらのサイトをロシアのミサイルの攻撃目標とする、偶発的あるいは核攻撃を避けることを目的とする合同データ交換センターに関する作業を中止する、などの脅しにでている。

米国やヨーロッパの人々の中には、潜在的なイランからの長距離ミサイルの脅威に対する初歩的な防衛を魅力的に感じるものもあるかもしれない。しかし、現在のところ、それは、時期尚早の欠点だらけのアイデアである。

ロシアの懸念は、誇大されたものであるかもしれないが、それは、ヨーロッパのミサイル防衛計画が時期尚早であり、技術が実証されたものでないとの現実を変えはしない。そして、もしワシントンがロシアの反対にも関わらず突き進むなら、それは、米ロのミサイル競争再燃の引き金となり、両国の未だに膨大な核弾頭とミサイルの量をさらに削減するための努力に水を差すことになり得る。

この数週間、米国の政府関係者は、ヨーロッパを駆けめぐり、提案されているシステムはロシアの核ミサイルに対処するためのものではなく、従って、ロシアの安全保障を脅かしはしないと説明してきた。もちろん、米国の10基の迎撃ミサイルは、ロシアの現在の地上配備の約500基のミサイルに対処するどころか、少数のミサイルが飛んできても、初歩的な防衛を提供するものに過ぎない。現在カリフォルニアとアラスカに配備されている迎撃ミサイルの原型を使った――シナリオ通りという性格の強い――実験は、2002年以来、5回に3回が失敗している。ヨーロッパに提案されているシステムは、実験どころかまだ製造もされていない新型の迎撃ミサイルを使うことになる。

しかし、存在していないイランのミサイルの脅威に対するミサイル防衛を米国の高官らが求めている一方で、ロシアの指導者らは、まだ作られてもいない穴だらけの戦略ミサイル防衛と、米国の実現しそうにもない潜在的な核増強に対して、戦略的核報復能力を維持できないのではないかと心配している。

なぜか?古い習慣はなかなか抜けないからである。ロシアと米国は、現在も、それぞれ、4000発ずつの核弾頭を、高い警戒態勢に置かれた運搬手段に配備している。そして、その結果、両方の軍事戦略家は、最悪の事態に備える計画を立てる。中身のない2002年の戦略攻撃核兵器削減条約(SORT)の下で、米国は、大量の予備の核弾頭の「保険」と余剰ミサイル能力を維持することができる。SORTが2012年に失効した後、米国は、その配備戦略核を核弾頭2200発から4000発を優に超えるレベルまで増大させることができる。

ロシアは、2012年までに、その配備戦略核弾頭を約2000発で維持する方向である。しかし、ロシアの長距離ミサイル戦力の大きさは、比較的小さいものになるだろう。独立研究者の推定では、ロシアの陸上配備ミサイル戦力は劇的なかたちで縮小し、2015年までに150にまで減る可能性があるという。

ロシアの不安は、より大量で、より正確な米国のミサイル戦力が、報復力を無力化する第一撃を加える能力を持つことになるだろうというものである。その場合、米国のミサイル防衛システムは、ロシアのヨーロッパ側領土で生き残り、発射できる可能性のある数発のミサイルに対処することができるかもしれない。

このシナリオを避けるための方法として、ロシアは、その核戦力削減計画の速度を鈍化させ、新しい長距離ミサイル・システムの配備を加速化させることができる。戦略核兵器削減条約(START)が2009年に失効させられることになればこのオプションは容易になる。しかし、米国を消滅させるロシアの能力を維持するために戦略削減協定・条約を崩壊させると言うのでは、ミサイル防衛のアイデアを良いものにはできない。

残念ながら、ブッシュとプーチンは、短期間のうちに互いの違いを解消してミサイル防衛を巡る衝突を避けるということにはなりそうにない。イランのミサイル・プログラムを評価するためにロシアがアゼルバイジャンで借りているガバラに置かれたレーダーを使ってはどうか、あるいは、場合によっては、ロシアのミサイルにはじゃまにならない他の場所での配備はどうかというプーチンの提案は検討に値する。しかし、ホワイトハウスは、ブッシュが大統領の職を去る前にヨーロッパのシステムの建設を始めようとの決意を持っているようである。

このようなアプローチは、間違っており無謀である。2015年あるいはもっと先まで現実のものになりそうにない潜在的ミサイル脅威に対して実証されていないシステムを急いで配備する必要はない。いずれにせよ、議会は、ヨーロッパ戦略ミサイル防衛計画用に3億1000万ドルというブッシュ政権の要求額を削減し、もっと能力のある短・中距離ミサイルの迎撃ミサイルに焦点を当てるという方向のようである。

米国とNATOのパートナーは、ブッシュとプーチンの後継者が登場するまでヨーロッパミサイル防衛計画の作業を延期すべきである。その間、ミサイル防衛についてのロシアの懸念について意味のある対話をロシアと行い、技術的代替策について検討し、緊張を和らげ米国の核の優位についてのロシアの不安を解消するようなさらなる核弾頭・ミサイル戦力削減についての新しい提案を行うべきである。


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