核情報

2007.7.12

ACT: START(戦略核兵器削減条約)からスタート


米国ACT誌巻頭コラム

START(戦略核兵器削減条約)からスタート(原文) 『アームズ・コントロール・トゥデー』2007年6月号

ダリル・キンボール

5年前、戦略攻撃兵器削減条約(SORT)の署名式において、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、この合意は米ロの間の「核の敵対関係という冷戦の遺物を消滅させる」と主張した。考えてみよう。SORTは、配備された戦略核弾頭の削減を進め、2012年までにそれぞれ1700−2200発まで減らすことを要求するものではあるが、核兵器も、互いの核の疑惑も消滅させてはいない。

条約が柔軟性を強調していることは、その予測可能性を減らし、より安定的で安全な米ロの関係を築く上でのその価値を下げるものである。以前の「戦略核兵器削減条約(START)」のアプローチと異なり、SORTは、戦略的運搬手段の破壊を定めていない。SORTは、また、非配備の核弾頭の貯蔵を両国に許している。この条約は、新しい検証メカニズムを構築できておらず、STARTに含まれているメカニズムに依存している。

さて、報道によると、どちらの政府も、2009年12月5日にくる有効期限を越えてSTARTを延長することを望んでいないようである。1991年のこの条約は、今日の現実を反映させるために調整する必要はあるかもしれないが、米ロの核兵器のより大幅で早く、また、逆転不能の削減にとって、重要な基礎となりうる(このようなかたちの削減は新たな戦略競争を防ぐことになるだろう)。

米国は、ポーランドに迎撃ミサイルを配備しようと計画している。これは、米国はその予備の核戦力を再配備し、また、残っている運搬手段を通常兵器の攻撃ミッションに利用するのでないかと懸念しているロシアに、さらなる懸念材料を提供するものとなっている。これに対応して、ロシアのウラジミール・プーチン大統領は、新しい戦略ミサイル・システムの計画を許可し、一部のミサイル・システムに搭載する核弾頭の数を増やすことを計画している。プーチンは、また、中距離核戦力を禁止した1987年の米ロ条約から脱退する構えを見せている。

STARTの消滅は、複雑さを増す関係をさらに複雑なものにするだろう。STARTは、冷戦の終焉に役だった画期的な取り決めだった。STARTは、それぞれ1万発だった戦略核戦力の弾頭を2001年12月5日までにそれぞれ6000発以下にするものだった。この合意は、また、戦略運搬手段(陸上及び潜水艦配備の弾道ミサイルと中爆撃機)をそれぞれ1600に制限した。

さらに、STARTは、広範な通知・査察措置からなるシステムを設定している。これが両国の戦力の大きさや位置についての正確な評価を可能にしている。2002年、米国の情報関係者らは、STARTがなくなれば、SORTの状況を監視する能力がかなり失われることになると警告した。新しいメカニズムが設定されなければ、両国は、「その核関係において<目隠し飛行>を行うことになるだろう」と米国の元検証担当者が2005年に『アームズ・コントロール・トゥデー』誌に語っている。

米ロの専門家らは、3月にSTARTの後継手段についての話し合いを始めたが、両者は、数件の中核的問題について対立している。ロシアは、それぞれ1500未満に戦略核弾頭を減らし、運搬手段についても制限を設けるべく交渉することを望んでいる。ブッシュ政権は、さらなる核兵器の制限を拒否し、非公式の透明性向上・信頼醸成手段を新たに設けることを望んでいる。

両国は、START後の何らかの検証措置を望んでいる。しかし、ロシアは、同国の国内法で要求されるような法的拘束力をもつ合意の中に現場査察などのもっと立ち入ったかたちの措置を入れる必要があると主張している。米国の交渉者は、相手国の核兵器貯蔵サイトへの「訪問」を許すかたちの了解の方がいいと主張している。

どうすれば良いだろうか。非公式の透明性措置は、助けにはなるが、確実性に欠け、大幅で永続的な戦力削減については役に立たない。一方、軍備管理条約に対するブッシュ政権の毛嫌いからすると、2008年末までに新しい法的拘束力のある合意が成立する見込みはあまりない。時期米国大統領にとって、STARTの期限切れまでに新しい取り決めを作る時間は限られたものとなる。

ブッシュ及びプーチンの後継者らは、条約を期限切れにさせたり、両者の間に前々からある相違を中途半端にごまかしたりするのではなく、SORTが獲得できなかったものを獲得する新しい合意に達するまで、STARTを遵守し続けることに合意すべきである――獲得すべきは米ロの冷戦時代の過大な核戦力の永久的で検証可能なかたちの削減である。双方が、もともと互いを破壊するために配備した核弾頭及びミサイルを、単に倉庫に入れるのではなく、実際に解体するとの信頼を回復するのには、すっきりしたSTART式の検証議定書を伴った新しい条約が必要である。

このような合意は、配備及び予備の全ての戦略核弾頭を1000発以下のレベルまで永久的かつ段階的に削減する道を示し、非戦略核ミサイルの数に上限を設けるものにすべきである。両国の戦略核が減少するに従い、両国は、少なくとも3000発は残っているロシアの戦術核弾頭と、それよりは少ないものの、ヨーロッパに配備されている480発を含む米国の戦術核弾頭について明細を示し、廃棄することに合意しなければならない。

2009年という年は、ベルリンの壁の崩壊から20周年記念の年である。米国とロシアは、もはや敵ではないにもかかわらず、未だに膨大な量の両国の核兵器は、不信と最悪ケースの想定とを生み出し続けている。必要なのは、有効性の実証済みのSTARTの原則に基づく真のの核削減に向けた新たな取り組みである。


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