2007年07月05日

ミサイル防衛、99%の確率?

久間章生防衛相が6月24日、沖縄で、「今のミサイル防衛(MD)システムで99%は排除できる」との認識を示したと報じられました。読売新聞は2007年3月23日に イージス艦発射ミサイル(SM3)とパトリオット・ミサイル3(PAC3)による2段階の迎撃率は、久間氏によると、「計算上は99%」にまで向上しているというと報じていました。何か複雑な計算をしているかのようですが、今回の報道によると、久間氏は「今のSM3で9割以上迎撃でき、外れた1割をPAC3が撃つ確率は9割」と述べたとのことです。

SM3が外した10%の90%をPAC3が撃ち落とすから残るのは1%、それで、全体として、99%撃ち落とせるとの「計算」と言うことです。

ここで久間前防衛相と小池百合子新防衛相に聞いてみなければならないのは、これまで行われたどのような実験に基づいて、SM3とPAC3の確率が9割ずつとの確信を得たのかと言うことです。

以下、防衛相への具体的な質問事項、これまでの実験のデータを簡単にまとめました。

ご覧のように、ノドン級のミサイルの弾頭が複数飛んでくることを想定した現実的な実験は言うに及ばず、ノドン級のミサイルの弾頭1発の飛来に対するものも、囮などを使った現実的なものは一度も行われていないのです。

防衛相への質問

  • ・SM3に関して
    • 1)ノドン・レベル(射程1300km程度)のミサイルの弾頭を標的にした迎撃実験は、何回行われているか。結果は。
    • 2)ノドン・レベルのミサイルが何発も飛来した場合を想定した迎撃実験は、何回行われているか。結果は。
    • 3)ノドン・レベルのミサイルで囮が使われた場合を想定した迎撃実験は、何回行われているか。(大気圏外では空気の抵抗がないため、本物の弾頭も弾頭の形をした囮の風船も同じように振る舞う。)
  • ・PAC3に関して
    • 1)ノドン・レベル(射程1300km程度)のミサイルの弾頭を標的にした実験は、何回行われているか。結果は。
    • 2)ノドン・レベルのミサイルが何発も飛来した場合を想定した実験は、何回行われているか。結果は。
    • 3)ノドン・レベルのミサイルをSM3が撃ち落とし損ねた後、PAC3で撃ち落とす実験は何回行われているか。
    • 4)PAC3でカバーできる面積はどのぐらいか。現在の配備計画で日本の面積のどのくらいの部分がカバーできるのか。

これまでのSM3迎撃実験 (出典 防衛情報センター(CDI) (pdf) )

  • 1) 2002年1月25日 FM2 成功 迎撃が目的ではなかった。アリーズが標的。
     注  アリーズ:
      射程700km。 
      ロケット燃料が燃え尽きたときのスピード 約2.4km/秒
      長さ 10.5m以上
      最大直径 1.3m

    ノドン
      射程1300km
      ロケット燃料が燃え尽きたのときのスピード 約3km/秒
      弾頭長さ 2m (おそらく)
      弾頭直径 1m (おそらく)
  • 2) 2002年6月13日 FM3 成功 アリーズが標的。
  • 3) 2002年11月20日 FM4 成功 上昇段階 オービタル・サイエンシズの実験ターゲットを使用。
  • 4) 2003年6月18日 FM5 失敗 アリーズが標的。 新型のSDACSの機能不良。噴射されるガスの流量を調整するボールに熱で亀裂が生じた模様。設計をし直す必要があると『エアロスペース・デイリー』(1/14/04)が報道。
  • 5) 2003年12月11日 FM6 成功 アリーズが標的。迎撃はできたが、新型ソリッド姿勢高度制御装置(SDACS)は、問題を解決できず単純モード(維持パルスのみ)で使用。
     (このため、ブロック2004で配備されるSM3では、SDACSのパルス1、パルス2を使用不能にして利用。)
      FM6では弾頭部分を破壊したが、弾頭部分は分離されずにロケットについたままだったので、大きなロケットがレーダーによる捕捉を容易にした。
  • 6) 2005年2月24日 FTM04−1(元MFー7) 成功 SDACS維持パルスのみ使用。発射の正確な時間を迎撃側に知らせない方式。
  • 7) 2005年11月17日 FTM04−2 (元FMー8) 成功 標的は、620−1860マイルの射程)。初めて標的の弾頭が本体から分離する方式。
  • 8) 2006年6月22日 FTM10(元FM−10) 成功 中距離標的。SM-3 Block1-A使用。きりしま参加。
  • 9) 2006年12月7日 FMT−11(元FM−11) 失敗 発射制御装置の問題で、迎撃ミサイルが発射できず。
  • 10) 2007年4月26日 FTM−11b 成功 FTM−11の繰り返し。標的は二つ。短距離射程の非分離型標的に、SM-3 Block1-A。敵航空機に見立てた標的に、SM-2 BlockIIIA。SDACSの使用が単純モード(維持パルスのみ)だったか多数モードだったかは不明。
  • 11) 2007年6月22日 FMTー12(元FMー12) 成功 中距離弾道弾の分離型標的に、SM-3 Block1-Aを発射。
    *2008年秋 日本のイージス艦からの迎撃実験予定。

PAC3迎撃実験(出典 防衛情報センター(CDI) (pdf)

  • 1) 2002年2月16日 失敗 (巡航ミサイルに見立てた無人機の迎撃実験)
  • 2) 2002年3月21日 半々 標的1発に2発発射。1発命中、もう1発は、発射失敗。標的は、スカッドに見立てた Heraミサイル
  • 3) 2002年4月25日 失敗 標的2発に2発発射。1発は敵ミサイルに見立てたパトリオット「命中」したが破壊に失敗。もう1発は、発射失敗。
  • 4) 2002年5月30日  半々 1発に2発発射。1発は命中。もう1発は、発射失敗。 標的は2段階式の弾道ミサイルStorm2 (pdf)。PAC-3はマーシャル諸島クワゼリンから発射。当初計画では、これらの実験の結果に基づき、2002年9月には少数生産計画の決定ができると期待されていた。最後の実験の失敗のあと、実験結果が悪すぎるので、国防省は、少数生産計画の決定を少なくとも1年は延期と発表。
    • ところが、2002年10月31日、「ミサイル防衛庁(MDA)」のケイディッシュ長官は、PAC3は、「有用な軍事システム」だとし、「予算の余裕のある限りできるだけ早く」購入することを提言した。
  • 5) 2004年3月4日 成功 1発に2発発射。標的は、スカッドを想定した改造パトリオット(PAAT)。 
  • 6) 2004年9月2日 成功 PAAT1発に2発と無人飛行機に1発とを発射。
  • 7) 2004年11月18日 成功 2発に4発発射。 標的はPAATとStorm。破壊に成功かどうかは不明。
  • 8) 2005年6月8日  成功 PAAT1発に2発発射。
  • 9) 2005年11月11日 失敗 短距離ミサイル1発に2発発射。発射失敗との誤信号が出て、3発目発射。3発とも命中せず。
  • 10) 2006年8月31日  成功 PAAT1発に2発発射。2005年11月11日の実験の繰り返し。

ヨーロッパへのミサイル防衛システム配備計画についての疑問

国防省の運用実験・評価局の元ディレクターのフィリップ・コイルは、米国がポーランドに配備しようとしている迎撃ミサイルについてマスコミは次のように問うべきだと述べている。これは、ケースは違うが日本の配備について考える際の参考になるだろう。

  • 東欧への米国のミサイル防衛システムの配備を急ぐのはなぜか。
  • イランがヨーロッパに対して1発だけのミサイル攻撃をかけた後、その結果を待つなんてことがあり得ると考えるのか。そして、ミサイル防衛庁が言うように、最善でも米国が扱うことのできるのは1−2発だとすれば、それは、現実的で、正当化できる脅威なのか。
  • 米国のミサイル防衛が現実的な運用条件の下における効果的な能力を示していないのに、今ヨーロッパで配備しなければならない理由は何か?

出典:A Game of Make-Believe: The European Missile Shield .

読売が挙げる問題点

冒頭で触れた読売新聞の記事(2007年3月23日)は、久間氏の「計算」の紹介のあと、ミサイル防衛には次のような運用面の課題があると述べている。

 海自のイージス艦から発射されるSM3は防御範囲が広く、2〜3隻で日本全域を防御できる。だが、一度に同じ地域に多数撃たれれば、迎撃率は下がる恐れがある。一方、空自のPAC3の防御範囲は半径15〜20キロと極めて狭い。「東京、大阪など人口密集地や原発など重要施設の防御を優先せざるを得ない」(空自幹部)のが実情だ。

 MDの「費用対効果」についても慎重な議論が必要だ。

 政府が04〜11年度の8年間で整備するMD経費は、SM3(4隻分)、PAC3(16高射隊分)、警戒管制レーダー(FPS—5)などを含め、総額8000億〜1兆円に上る。日米両政府が14年度を目標に共同開発している次世代型の海上発射型迎撃ミサイルを導入する場合、経費はさらに膨大になる。

 04年末に決定した「防衛計画の大綱」では、MD導入を優先した結果、旧大綱に比べ、戦車(約900両)と火砲(約900門・両)は3割以上削減された。戦闘機(約300機)と護衛艦(約50隻)も1割前後減らされ、主要装備にしわ寄せが出ている。

 防衛省幹部は語る。

 「弾道ミサイルの迎撃手段が全くない中で、MD導入に1兆円をかけるのは当然だ。だが、迎撃が100%的中することはあり得ない。迎撃率を高めるためだけに、さらに巨費を投じるかどうかは、費用対効果を含め、日本の防衛力整備のあり方として総合的に考える必要がある」

【核の脅威】[第3部] 日本の抑止力(4)日米同盟強化が担保(2007年3月23日 読売新聞)

防衛白書はどう述べているか。

白書は囮などについて次のように言う。

 依然として弾道ミサイル技術の拡散は進展しており、各国が保有する弾道ミサイルも将来的には、デコイ(囮(おとり))を用いて弾頭の迎撃を欺瞞(ぎまん)するなど、迎撃回避措置を備えたものになっていく可能性も否定できない。このような弾道ミサイルの先進化に対応した能力向上を継続的に図っていくことが必要である。また、従来型の弾道ミサイルに対しても、1つのシステムが防護できる範囲の拡大や迎撃確率を向上することなどが求められ、迎撃ミサイルの運動性能の向上などを図り、BMDシステムの効率性・信頼性の向上に取り組んでいくことが必要である。

参考

投稿者 kano : 2007年07月05日 05:14